こなつ

コットンテールのこなつのレビュー・感想・評価

コットンテール(2022年製作の映画)
3.8
日本・イギリスの合作映画。日本での留学経験があるイギリス人パトリック・ディキソン監督の長編映画デビュー作。リリー・フランキー、錦戸亮、木村多江、高梨臨が出演。ローマ国際映画祭で、最優秀初長編作品賞を受賞。

タイトルの「コットンテール」とは「ピーターラビットのおはなし」に登場するピーターの妹の名前。

家族の愛と再生の軌跡が東京とイギリスを結ぶロードムービーで紡いでいる。とても静かで優しい作品だった。

妻・明子(木村多江)に先立たれた夫・兼三郎(リリー・フランキー)が、一人息子の慧(とし)(錦戸亮)と慧の妻・さつき(高梨臨)や孫と共に、妻の遺言を叶えるためイギリスへ旅に出る。明子は、子供時代の思い出の地「ピーターラビット」の発祥地であるイギリス北部のウィンダミア湖に自分の遺灰を撒いて欲しいと願っていた。

認知症と病気で苦しんでいた妻を懸命に看病し、妻が居なくなった事で深い喪失感に打ちひしがれた夫をリリー・フランキーが静かに渋く寂しげに演じていて素晴らしい。長い間疎遠だったのか、兼三郎は息子ともしっかり向き合うことが出来ない。旅先でも喧嘩ばかり。そんな兼三郎が、イギリスで出会った農場の親子の話に長年わだかまりを抱えていた息子との関係を見つめ直す。

母は自分の病気を悟り、ひとり息子の事を最期まで心配している。そして息子も病気で壊れていく母を気遣う。それなのに最期まで息子に頼れなかった自分を振り返り、父が気付いたこととは、、

兼三郎が明子と出会った若い頃を回想する。夫婦の若い頃を演じた2人も違和感がなくて素敵だった。イギリスの農場の親子がとても温かくて自然体だと思ったら、本物の親子の共演。父親役のキアラン・ハインズは「ベルファスト」で、少年バディのお祖父さんだった人。

決して珍しい家族ではない。どこにでも居るような父と息子。いつの間にか出来てしまった心の距離が縮まるその時を、母は強く願っていたのだろうと感じて胸が熱くなったラストだった。
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