さしみ

コットンテールのさしみのレビュー・感想・評価

コットンテール(2022年製作の映画)
4.0
赤子で産まれて赤子に戻り生涯を閉じる。

死ぬ時は家族に迷惑をかけたくないと誰しもが思う事です。
結果的に病がそうさせないだけ。

家族の中で夫婦だけは血の繋がりは無いけど、出逢って恋に落ち、共に生きようと誓い、子供が産まれて時には戦友のように悩み苦しみ支え合う。

しかし兼三郎は結婚後も自分の気分や仕事を優先して生きて来たであろう人物で
その事を妻・明子の闘病中に思い知らされ、治る見込みが無く日に日に症状が悪化する明子に必死に尽くします。贖罪の如く。
妻の死を経て痛いほどに夫として父としての立ち振る舞いを自戒するのです。

途中差し込まれる若い頃の仲睦まじい2人のやりとりが初々しく幸せいっぱいで、
この先に起こる非情な運命が分かっているだけに胸が苦しくなります。

お互いに想いは同じはずなのに息子と気持ちのすれ違いで勝手に1人でウィンダミア湖を目指す兼三郎が道に迷った時に助けてくれた父娘は命の恩人と言っても良いくらいありがたい存在でした。

作品冒頭の兼三郎が1人で街を歩き寿司屋に入るシーン、至って静かだけど危なっかしくて何をするか分からないオーラが漂っていてぞわぞわしました。改めてリリーさんは素晴らしい俳優さんです。

ラストシーンのイギリス湖畔地方の風景、太陽の優しい日差し、ウサギを楽しそうに追う後ろ姿…精神的な部分の人生再生ストーリーでした。
鑑賞後、しばらく余韻を残す感慨深い作品。
さしみ

さしみ