ひこくろ

ボーはおそれているのひこくろのレビュー・感想・評価

ボーはおそれている(2023年製作の映画)
4.2
約三時間、頭のなかでずっと「これはなんだ?」という思いが巡り続けているような映画だった。

「ヘレディタリー 継承」や「ミッドサマー」は普通の日常の中に少しずつ異常が紛れ込み、やがて浸食されていく映画だったが、この映画はそれと真逆な印象。
舞台は、やたらと騒がしく物騒で、誰もが狂ったような行動をしている街だし、そこで起こる出来事も普通ではないことばかり。
日常自体がすでに普通ではなく、異常と化しているのだ。
その異常の中に、わずかばかりの普通が入り込んでいき、終盤で普通が異常に取って代わる。

明らかにされる普通のことは、普通のはずなのに、いや、普通だからこそ、恐ろしくおぞましく見えてくる。
なるほど、これはそういう映画だったのか、とそこで腑に落ちる。
で、納得。できたかと思いきや、そこからまだ異常なことが次々と放り込まれてきて、結局はやっぱり頭の中が「?」だらけになった。

ここまでわけがわからないと、普通はつまらなく感じてしまうものだが、少しもそう思わせないのは、アリ・アスター監督の上手さなのだろう。
終盤まで終始漂う、どこかとぼけたような雰囲気も面白かったし、怯える無垢な少年、のような中年を演じきったホアキン・フェニックスもとても良かった。

無音のスタッフロールが流れるなか、延々と写され続けるラストシーンも、何かその先を予感させる不穏さと、やっぱりわけわからなさに満ち満ちていて、この映画のイメージを裏切らない。
わけがわからないのに面白い、としか言いようのない、とても変わった映画だと思う。
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