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不死身ラヴァーズのひこくろのレビュー・感想・評価

不死身ラヴァーズ(2024年製作の映画)
4.2
随分と変わった恋愛映画だった。

りのは恋する相手、甲野じゅんにまっすぐにアプローチしていく。
が、なぜかじゅんは両想いになった途端に消えてしまう。
そして、また年齢も性格も何もかも変わった新たなじゅんが現われる。
りのは、またもや全力でじゅんに迫っていく。

というのが、おおまかなストーリー。
なんだそりゃって感じなんだけど、見上愛演じるりのの純粋さがその変な感じをおかしく感じさせない。
じゅんに向かっていく時、りのは全身全霊で本気で、ものすごく魅力的に見えるのだ。
じゅんが陸上選手なら、彼についてりのはどんどん足が速くなっていく。
軽音部の生徒なら、彼についていくためにりのはギターをマスターしてしまう。
そんな調子で、じゅんがどんな人間として登場しようと、りのはわき目もふらずに彼に猛進していく。
恋をしている人間は無敵だとでも言わんばかりに。

でも、恋が成就した瞬間に、じゅんは消えてしまう。
何度も何度もめげずに、新しいじゅんに向かっていくように見えるりのだって、じつは心が削られていく。
当然だ。どんなに恋をしても、その人と結ばれることがないのだ。
このせつなさは、後半、さらに高まりを見せる。

絶対に恋が実らないような、ある事情を抱えたじゅんに対し、りのは安心と不安を同時に抱く。
もうじゅんが消えることはない、という安心感。
そして、消えないけれど決して恋が実ることもこともない、という不安感。
この相矛盾する気持ちを抱えながら、それでも恋に生きるりのがたまらなくいい。
と同時に、その姿はたまらなくせつなくもある。

マンガが原作とのことで、ファンタジックにまとまるんだろう、と思っていたら、意外にもものすごく現実的な着地点に落ち着いたのもよかった。
一本の映画として不満に思う点はいくつもある。
幼少期のエピソードがよくわからない、田中の扱いがあまりに酷い、前田敦子の意味も微妙、結局のところ甲野じゅんとは何者なのか。
ひとつひとつ挙げていったらキリがないような気がする。
それでも、恋した時の気持ちが全部詰まってるという一点でそれが許せてしまう。
強さ、弱さ、脆さ、苦しさ、儚さ、エネルギー、熱さ……。
ここには恋に関するすべての要素がある。
それを見上愛がこれでもかってほどに全部、見せてくれる。

そういう意味で、とても愛らしい映画だと思った。
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