ひたる

14歳の栞のひたるのネタバレレビュー・内容・結末

14歳の栞(2021年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

竹林亮監督の長編初監督作品。「MONDAYS」が最高に面白かったためずっと気になっていた。埼玉にある中学校の2年生のクラス35人に1年間密着したドキュメンタリー。名前をカタカナ表記するといった配慮はなされているものの、個人情報が丸々出てくるためBlu-ray化等は一切していない。4月の新学期シーズンに定期的に上映されているようで、この機会を待つほか鑑賞する術は無い。今回満を持して観ることができた。

今作を一言で表すなら、自分を測る尺度となる作品だった。これを観て、ただ懐かしいと思い出を夢想するのか、あの頃に戻りたいと悲観するのか、初心に立ち返って明日への原動力とするのか、その時々の気分や状況によって変わってくると思う。定期的に見返したい。

まずは冒頭。様々な動物の映像を体感5分ほど観せられて一瞬映画を間違えたかと頭をよぎったがそんなことはなかった。この趣旨はすぐに明かされる。それは人間も地球上に生息している動物の1種族にすぎないと定義し、すべての動物が子どもから大人へシームレスに成長していくのだから、人間も本来例外ではないのかもしれないという疑問を投げかけるものだ。しかし文明の発展によって学校という制度が出来上がり、人類はこの成長グラデーションの視覚化に成功した。つまりこの作品は、子どもと大人の間で揺れ動く神秘をカメラに収めた、ありふれた光景の貴重な記録だ。

人物紹介の名前カットインがペルソナみたいなスタイリッシュさでかっこよかった。全員主役の生徒たちは「あーいたいた、こんなやつ」のオンパレード。ムードメーカー、イケメン、運動神経抜群なやつ、いつも絵描いてるやつ、不登校、破天荒な美術部員、恋する乙女、世話焼きなおかん、挙げ出したらキリがない。全員が全員個性の塊だけれど、見覚えのある人間模様でもある。世代は変わっても世界は繰り返す、代替可能で唯一無二な存在たち。不思議で面白い。村田沙耶香の短編小説「殺人出産」の一節を思い出した。
「働き蟻の寿命って、2年くらいだそうですよ。でもこの子たち、私たちが小さいころから、変わらずずっといますよね。知らないうちに、命が入れ替わってるだけで、ずっと存在している」

バレンタインのあれこれは微笑ましかった。「俺、最後の大会に賭けてるからさ、全部終わったら付き合おう」は恋愛漫画すぎる。この世界で、しかも日本の同じ関東圏で実際に起きていた出来事なことに驚き。ホワイトデーのお返しに何を送るか悩むところや、そこで思い切って本人と仲が良い女子にLINEしてみる場面などは、水面下の駆け引きを追っているようで楽しかった。
教育実習の先生に恋する女子が等身大で良かった。お別れの手紙を渡した後に「あの人、適当なんですよ。ほら、もらった手紙、ああやって書類の上に置いてるでしょ」みたいな悪態をつく姿があまりにも良すぎる。

己の自堕落さから鑑賞1ヶ月後となった今、ようやく重い腰を上げて感想を書いているが、ここまで鮮明に内容を思い出せる作品も珍しい。その1番の理由は、ひとりひとりが生きているからだろう。ドキュメンタリーだから当たり前ではあるのだが、キャラクターの密度が違う。人生という厚みを感じる。創作においても、キャラクターに人物年表を作って人生を与えてあげれば近い状態になるのではなかろうか。漫画家の冨樫義博が「キャラクターが勝手に動き出して、考えた展開を拒んでくるときがある」と言っていたが、それこそがキャラクターの生命であり、意志であり、究極の魅力なのだろう。
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