まーしー

とんびのまーしーのレビュー・感想・評価

とんび(2022年製作の映画)
4.5
号泣した。
不遇の事故により妻を亡くした昭和の不器用なオヤジが、男手一つで男児を育てるという、父子の物語。

重松清の原作は既読。息子アキラの誕生から成人後まで、いくつかのエピソードを省きながらも、比較的忠実に映画化しているように思う。

阿部寛が演じる父親ヤスは、頑固一徹ながらも繊細。天邪鬼でひねくれ者。でも、筋だけは通す——。何と気難しい性格だろう。
母の死の詳細を息子アキラに伝える時、涙を隠そうと頭に大量のシャンプーをするヤス——。
思わず子どもを殴った日の翌日には手土産にケーキを買って帰るヤス——。
息子が巣立つ日の朝はトイレにこもったままのヤス——。
いずれのエピソードも、内面に弱さを持ちながらも、素直に表に出せない性格を指し示している。
何て不器用だろう。観ていて歯がゆい。でも、この歯がゆさが味でもある。

成人した息子アキラを演じたのは北村匠海。優しくも、芯を持った人物。
不器用な父親に呆れながらも、心の底では父親のことを人一倍考えている。
そのようなアキラは、父親だけに育てられたのではない。地域の人みんなに育てられたのだ。
ヤスが通う居酒屋の女将で独身のたえ子(薬師丸ひろ子)は言う。母親のまねごとをさせてもらった、と。
そのたえ子にも複雑な過去があり、そのサイドストーリーもまた、涙を誘う。

映画の底流にあるのは、昔気質な父親像。大黒柱の父親が言うことは絶対服従のみ。
この人物像を受け入れられるかどうかで、本作の評価が分かれそう。
ただ、少なくとも私には刺さった。
正解を知らないまま無我夢中の子育て——その答え合わせが不遇の事故から約25年後に訪れたことを思うと、涙なしでは観られなかった。

大島優子や濱田岳、杏も出演するなど、俳優陣も豪華。
多くの人に観ていただきたい作品。