クリステン・スチュワート主演、ダイアナ・スペンサーに纏わる"伝記映画"。
"Now leave me. I wish to masturbate. You can tell everyone I said that."
『クィーン』と『プリンセス・ダイアナ』を観た後に鑑賞。
冒頭にあった通り、本作は史実を忠実に再現した伝記映画ではなく、"実際の悲劇を基にした寓話"とのこと。
ウェルメイド。イギリス王室という伝統に囚われ、精神に異常をきたしたダイアナ・スペンサーが、離婚を決意するまでのクリスマス休暇3日間を追うニューロティックスリラーのような作品。屋敷が鳥籠や牢獄のように演出されていたり、ダイアナ妃と同じような境遇にあったアン・ブーリンの亡霊が出現したりするのが特徴的だった。
ダイアナが明らかに異質な存在として描かれている。徹底的な統制の下、規則正しく行動する"無個性な"王室の人々と、自由で感情的でダイアナの対比があった。衣装も独りだけ周りと馴染まないし、カメラワークや構図に関しても"安定のイギリス王室vs不安定なダイアナ妃"として演出されていた。ダイアナが精神的に追い詰められる度に背景で流れる不協和音も効いている。
ダイアナが屋敷の庭にいるキジに話し掛けるシーンがぐっと来た。ハンティングの獲物として屋敷で育てられているキジを、「美しいが頭は空っぽ」でここに留まっていては将来への希望がないと、自分と重ね合わせる。
畑にぽつんと佇むカカシが羽織っていた、ボロボロのスペンサー家の上着がストーリー上のキーアイテムとなっている。離婚の決意を固めたダイアナは、王室から用意されていたドレスはカカシに着せ、修繕されたスペンサー家の上着と共に屋敷を後にする。
王室の生活は、衣装から、食事、体重、スケジュールまで、何から何まできっちりと決められている。心休まるのは、二人の息子と過ごす時間のみ。一般人の感覚からすると、気が狂ってしまうのも無理ない。
大人の事情が絡んでいるのかもしれないが、イギリス王室の人々はダイアナにとって敵か味方か曖昧な存在として描かれていた。特に、ショーン・ハリス扮するシェフとティモシー・スポール扮する少佐。何を考えているのか読めない上に、ダイアナの行動をすべて監視しているかのごとく神出鬼没なので不気味。何気ないシーンでも緊張感を生んでいた。
衣装、セット、メイク・ヘアスタイルが完璧。ゴージャスで美しい。クリステン・スチュワートの演技も素晴らしい。
"The thing is, Diana, there has to be two of you. There's the real one and the one they take pictures of. "
"Because they don't want us to be people. That's how it is. I'm sorry, I thought you knew. So please, stick to the list as it is written, in the order that it is written."
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