ダグラス・サークの記念すべき初長編であるこのUFA産コメディはおそらく当時隆盛を誇っていただろう、エルンスト・ルビッチへの憧憬ばかりが先立つ類の二番煎じ的な喜劇であり、ここでサークは徹底した職人監督として粛々と軽妙な笑いを演出し続けている故に、この端正さを美徳と取るか当り障りなさと取るかは観客各々の価値観に委ねられるだろうが、俳優陣もまたサークの演出に奉仕するが如く全く書割的な高慢な悪と素朴な善を真摯に演じるなかで、たった1人、たった1人だけ露骨なまでにその偏見と嫉妬をブチ撒けていくパン屋の阿呆娘役であるCharlott Daudert(シャーロット・ダウダートか?)の、例えば怒りに任せて周囲の物を投げ散らかしたり、不審者に盗まれないようにと手首の真珠を隠そうとして不覚にもブッ壊すなど、その小市民の破壊的行動の数々によって映画が駆動する様は必見でありながらも、実際は嘘に翻弄されるパン屋のオーナーの狼狽や、その秘書と王子の無菌的なロマンスが主眼となってしまう甘さが当時のサークの弱点であることは言うに俟たず、そして今や永遠に失われてしまったとされる、同時制作のオランダ語版への憧憬ばかりが募る。ぬるいコメディだ。