グラマーエンジェル危機一髪

薔薇は何故紅い/薔薇はなぜ紅いのグラマーエンジェル危機一髪のレビュー・感想・評価

1.0
1930年代にキング・ヴィダーが監督した救いようがない駄作を観るたびに、彼にとってトーキー映画が隆盛を誇り始めるこの年代における映画製作が困難なものであったか、ともすれば苦痛であったのかもしれないと独善的な妄想を深めてしまうが、中でも全く激烈なまでに見苦しい作品が「薔薇は何故紅い」("So Red the Rose")であることに疑いはなく、奴隷労働で財を成した南部の貴族が南北戦争で没落するという設定自体がもはや苦笑で、それなら「風と共に去りぬ」はどうだと聞かれども、そもそも私は駄作としか思わなし、登場人物たちの精緻な書き込みが今作を歴史に埋もれることを許さなかったとは思えども、この「薔薇は何故紅い」は登場人物の描写がおざなりなどころか、そんな彼らに甘ったるい共感を向ける雰囲気は犯罪的で、劇中で自由を得た黒人奴隷たちの姿はまるで日本人の考えるBlack Lives Matter、つまりは暴動を起こして街をブッ壊す暴徒集団(とはいえ、長い間迫害を受けてきた黒人たちがアメリカの白人たちに対し暴動を起こすことの何が悪いのか)だし、何より南北戦争がなければずっと平和で幸せだったのになあ……という郷愁は全く耐え難いし、映画として演出が端正ならばまだ救いようがあるが、ヴィダーの演出もあまりに振るわないので後世において全く見捨てられているのには安堵する一方、IMDBを読めば分かる通りたった10年20年前まではこんな駄作をも擁護する人間は確かにいたし、解放の機運のなかで血気盛んとなっている黒人奴隷たちを、南部貴族のボンボン白人であるマーガレット・サラヴァンが優しく真摯に諭して、彼らが暴動に打って出るのを止めるなんて御大層な場面を人間の理性と知性を象徴した場面と馬鹿真面目に語るアメリカ人は未だにいるのだ、素晴らしいことだ。