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屋根裏の巳已己のひこくろのレビュー・感想・評価

屋根裏の巳已己(2020年製作の映画)
4.1
自主制作映画ならではの、これでもかというぐらいの熱さがとても気持ちよかった。
たぶん監督の寺西涼には、「これ」が撮りたいという確固たる意志があったのだろう。
物語も、台詞も、演技も、撮り方も、音楽も、演出も、見せ方も、すべてがそのためだけに突き詰められている感じがする。
手持ちカメラによる、緊張感溢れる独特なカメラワークは、この映画の大きな特徴のひとつだと思うが、それすらも「これ」を撮るための手法でしかない、と思わせられるのが凄まじい。

しかも、「これ」は「この映画」としか言いようがないものなのだ、というのがまたすごい。
思いきり雑にジャンル分けすれば、一応、ホラーということにはなるのかもしれない。
でも、とてもじゃないが、到底そんなジャンル分けは、この映画に何の意味ももたらさない。
ミステリーのようでもあるし、青春映画のようでもある。
ホラーとも思えるし、やりきれない人間関係を描いた映画にも感じられる。
淡い恋の話、あるいは大人の恋愛話、として観ることだってできなくもない。
それはもう「これ」としか言いようがないのだ。

正直に言えば、得体の知れないよくわからない映画だと思う。
でも、そこには確かに、苛立ちやエロさ、愛情や現実からの逃避なんかがはっきりと存在するし、感じられる。
言葉にはできなくても、監督の撮りたかった「これ」は間違いなく伝わってくる。
「これ」を撮るためだけにひたすらに情熱を捧げ、「これ」を追求した、ある種、狂気にも似た執念の結晶だろう。
自主制作映画にしかなし得ないことをやってみせた、面白い映画だった。
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