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ベイビー・ブローカーのドラのレビュー・感想・評価

ベイビー・ブローカー(2022年製作の映画)
4.5
今作で是枝監督が描くのは、ほんの少しの間“里親探し”を一緒にするはめになった疑似家族。今回のメンバーは家族として生活はしていません。赤ちゃんを置き去りにした若い女性ソヨン、借金に追われるクリーニング店の店主サンヒョン、赤ちゃんポストがある施設で働くドンスは、ソヨンの赤ちゃんの里親探しを続ける旅を通して家族になっていきます。

一緒にいる時間を長く重ねて寝食を共にし、心を通わせた時に血の繋がりとは別の家族というカタチがうまれるのかなと思いました。それと同時に、赤ちゃんポストの意味と“赤ちゃんをポストに預ける背景”、そして預けられた子ども達が感じていることを映画を通して考えさせられました。

是枝監督は、この『ベイビー・ブローカー』の準備をしている日々で話を聞くことができた子ども達(親が何らかの理由で育児放棄し施設で育った子ども達)が、“果たして自分は生まれてきてよかったのか?という問いに対して答えを持つことができなかった”ということを知って言葉を失ったそうです。

生まれなければよかった命なんてあるはずがない。でも実際に親から捨てられた子ども達には“捨てられた事実”がつきまとう。生きることとその意味を「ベイビー・ブローカー」という映画を通じて考えさせられます。

個人的には赤ちゃんポストが世界中にあることや、初めての赤ちゃんポストはたった20年前にできたこと、日本と韓国の預けられた子どもの数の差や社会情勢などを、今更ですけどこの映画をきっかけに知って、女性としていろいろと考えさせられました。こんなことを書くとどんな重い映画なんだと思われるかもしれませんが、こんなに重いテーマなのに、主人公サンヒョンを演じるソン・ガンホの憎めないキャラとユーモアに助けられて、彼らの旅を眺めながらこんな家族があったらそれはそれでいいのになぁと思っている自分がいました。

是枝監督は、いつもいわゆる“普通じゃない家族”を描いているのに、彼の映画は“普通じゃない家族のほうがよっぽど家族らしい”と観ているうちに思わせられるので不思議です。結婚というカタチではない、家族というか仲間の作り方があってもいいのになぁと思ったりもしてしまいます。

彼らを検挙するためにずっと尾行している刑事スジン(ペ・ドゥナ)の存在も、ストーリーが進むにつれ少しずつ存在感が大きくなり、旅はいつか終わるものですが、旅の終わりとその後のラストシーンはなんだかとても優しい終わり方だなぁと、いろいろと考えさせられたにも関わらず静かに落ち着いてエンドロールを迎えられたような気がします。
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