逃げるし恥だし役立たず

アウトポストの逃げるし恥だし役立たずのレビュー・感想・評価

アウトポスト(2020年製作の映画)
3.5
2009年10月3日、アフガニスタン北東部の山奥に置かれた米軍のキーティング前哨基地が、三百人以上のタリバン戦闘員による総攻撃を受ける。十四時間にも及ぶ過酷な戦闘が繰り広げられた「カムデシュの戦い」に於いて約五十人の米兵の攻防を描いたミリタリー・アクション映画。ジェイク・タッパーの『The Outpost: An Untold Story of American Valor(2012年)』が原作。
アフガニスタン北東部に位置するキーティング前哨基地は、米軍の補給経路を維持するための重要な拠点とされていたが、四方を険しい山々に囲まれた谷底に位置しており、敵に包囲されれば格好の的になってしまうという致命的な弱点があった。派遣されたロメシャ二等軍曹(スコット・イーストウッド)ら兵士達は、防御面の圧倒的な脆弱さに驚愕する。連日に亘りタリバン兵から銃弾が撃ち込まれながらも敵が少数だった為、事なきを得ていたが、其れは基地の防衛能力を調べるためのタリバンの計算だった。そして或る朝、突如、数百人ものタリバン兵の総攻撃が開始される。後に「カムデシュの戦い」と呼ばれる、アフガニスタン紛争で最も過酷な激戦の幕開けだった…
四方を山々に囲まれた谷底にある米軍の前哨基地という過酷な環境で、絶望的に不利な状況下の中、兵士たちの生々しい人間模様と緊迫したアクションを描いた実話をベースにした映画だが、全滅必至の前線基地に送り込まれた顛末を淡々と描いてるだけで、描き尽くされたジャンルのため新鮮味は欠け、今更展開に作劇的な醍醐味はまずもって無い。其の為、映画的な見所は戦闘シーンのリアリティとなる。
吊り橋での爆発シーンのロングショットに、銃撃戦で随所に見られるワンカット映像、谷底の前哨基地から俯瞰へと移動するドローン撮影も巧みで、終盤四十分以上に亘る総攻撃では、爆発音や銃撃音、怒声や足音など迫力の音響に、派遣された米兵約五十名のうち数人の兵士に重点を置いた、ズーミングを使わない手持ちカメラの移動撮影により個人の視点で銃撃戦を描きながら、其れをフルショットで繋ぐなどして、戦闘員に囲まれ絶体絶命の恐怖を多視点に再現している。
また俳優陣の顔触れも実力派俳優から次世代スターと様々で、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ(タイ・カーター特技兵)、オーランド・ブルーム(ベンジャミン・D・キーティング大尉)に加えて、スコット・イーストウッド(クリント・ロメシャ二等軍曹/クリント・イーストウッドの息子)やマイロ・ギブソン(ロバート・イエスカス大尉/メル・ギブソンの息子)やジェームズ・ジャガー(クリス・ジョーンズ/ミック・ジャガーの息子)、ウィル・アッテンボロー(エド・フォークナー二等兵/リチャード・アッテンボローの孫)、スコット・アルダ・コフィ(マイケル/アラン・アルダの孫)と云った名優の子孫たちの面々、実際の戦闘に参加した本物の兵士までもキャスティングされていて面白い。ベンジャミン・D・キーティング大尉(オーランド・ブルーム)やロバート・イエスカス大尉(マイロ・ギブソン)達の各々戦略が違うリーダー像、戦闘後のインタビュー映像のエピローグや、誰が何々勲章を授与されたと云う紹介が延々と流れるエンドロールなど、映画の大半を戦闘描写に費やしているが、其々の兵士の描き分けも上手く、人物描写に深みを与えている。
最早映画の題材でしかない米国の軍事介入の戦いに、四方を山々に囲まれた摺鉢の底の基地なんて映画化ありきの恰好の舞台にしか思えないのだが…