アキラナウェイ

FLEE フリーのアキラナウェイのレビュー・感想・評価

FLEE フリー(2021年製作の映画)
3.2
"故郷とは、ずっといてもいい場所"

我々日本人の多くは、それぞれに故郷があるのだろう。いや、様々な事情で故郷を離れ、もう戻れないとしても今いる場所が自分にとっての第二の故郷となり、ずっといてもいい場所=自分の居場所になっている筈。

でも、このアフガニスタン出身の青年にとっては違う。

アフガニスタン出身のアミンは、幼い頃父が当局に連行されたまま戻らず、残った家族と共に命懸けで祖国を脱出。やがて家族とも離れ離れになり、数年後たった一人でデンマークへと亡命した彼は、研究者として成功を収め、恋人の男性と結婚を果たそうとしていた。しかし、彼には恋人にも話していない、20年以上も抱え続けていた秘密があった—— 。

彼らが祖国を離れ、ロシアに亡命してからの生活も、そこから密入国者のブローカーを通じてロシアを脱出するエピソードも、何もかもが壮絶で言葉を失わう。

たった1人で亡命しなきゃいけないなんて。どれだけ心細く、不安だっただろう。

主人公のアミンをはじめ、周辺の人々の安全を守る為にアニメーションで制作されたという経緯は、アニメーション作品でないにせよ、同じLGBTQ関連という事で「チェチェンへようこそ—ゲイの粛清—」を彷彿とさせる。

とはいえ、LGBTQに関してのテーマの掘り下げよりは、紛争地域からの亡命を余儀なくされてしまったという、世界の放浪者"exile"としての側面を深く描いている印象。

必死の思いでアフガニスタンを離れ、ロシアから脱出し、それでもまた再びロシアに強制的に戻される件(くだり)が、観ていて1番精神的に参った。

「Imagine」を歌ったジョン・レノンが凶弾に倒れ、44年もの月日が経ったのに、世界情勢はどう変わっただろう。より酷くなってやしないだろうか。

数年前までは、日本が安全だとか平和ボケだとか言えていたけど、日本だって様々な課題を抱え、こんなにも生き辛い状況になってしまっているじゃないか。

世界情勢を知るという意味では意義ある作品だと思うが、アニメーションの出来がすこぶる良い訳ではなく、本当に登場人物達の安全を考慮して描かれたという最低限のシェルターとしての意味合いしか持たない、あくまで中身で勝負の作品。個人的な意見としては、それなら顔を隠した実写でのドキュメンタリーでも良かった気がするので、スコアはそれなりで。