ギルド

BEGINNING/ビギニングのギルドのレビュー・感想・評価

BEGINNING/ビギニング(2020年製作の映画)
4.5
【箱に入ってる従順は"支配"か"復讐"か?】
■あらすじ
ジョージア正教会の信者が国民の大半を占めるジョージアの郊外、少数派の「エホバの証人」の教会「王国会館」に突然火炎瓶が投げ込まれ、教会が全焼してしまう。
指導者ダーヴィドは警察に捜査を依頼するが、まともに対応してくれない。ダーヴィドは教会再建の資金を長老たちに相談するため家を留守にし、妻ヤナは息子ギオルギとともに家に残された。
首都トリビシからやって来た刑事だという男を家に入れたところ、ヤナは思いもよらない質問を受け、恐怖を感じる。ヤナが警察に尋ねると、その男は刑事ではないという。そして、彼女にはさらなる過酷な運命が待ち受けていた…。

■みどころ
箱とは室内空間でもあり、人の精神世界でもある。
箱の中身に何が入っているか?が箱に物を入れた人物しか知らないように部屋の中で、人が何を考えているか?は当事者しか知らない。
それと同時に箱も第三者が遠くから見ると何かが見えないように、近場で見ると悲惨な教会の火災も遠くから見ると悲惨さが薄れる。

本作はブラックボックスであることが象徴された"行動の意味合い"のサスペンス映画で、全編通じて「何かが始まろうとする」「何かが終わろうとする」の瀬戸際に立たされる不気味な映画でした。

ジョージア映画版シャンタル・アケルマンを思わせるほど長回しで構成され、狭いカメラワーク・薄暗い画面設計は心情そのものを描いている。
更に同じシーンで意味合いが異なるシーンも幾つか存在し、寝転んだり水に浸かったり台所で調理したり食卓の椅子に座ったり…何気ないシーンに複雑な意味が混在し、関わる当事者の思想によって情愛にも陵辱にも宗教にも変化する。そこの駆け引きが不気味だと感じました。

行動の動機付けが思想によって異なるだけでなく、一方向の身勝手な行動しておいて贖罪と称した自己犠牲のいい加減さを描いているのが素敵だと思う。
そこには逃げられない家父長制・思想による弾圧があり、けれども抑圧された事への怒りを容易に暴力で解決出来ないもどかしさもある。
そこに対して苦しみを受けた人間の誰にも頼れない故の自然治癒の時間という映画側の優しさがあったり、怒りを下す映画側の鉄槌があるのが素晴らしかったです。
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