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王国(あるいはその家について)のギルドのレビュー・感想・評価

4.0
【多角的に捉えて見える役者の多層な情報群】
■あらすじ
出版社の仕事を休職中の亜希は、一人暮らしをしている東京から、1時間半の距離にある実家へ数日間帰省をすることにした。
それは、小学校から大学までを一緒に過ごしてきた幼なじみの野土香の新居へ行くためでもあった。

野土香は大学の先輩だった直人と結婚して子供を出産し、実家近くに建てた新居に住んでいた。その家は温度と湿度が心地よく適正に保たれていて、透明の膜が張られているようだった。
まるで世間から隔離されているようだと亜希は思った。
最初は人見知りをしていた野土香の娘・穂乃香は、亜希が遊びの相手をしているうちに彼女に懐いた。一方、野土香からはとても疲れているような印象を受けた。

数日後、亜希は東京の自宅にいた。彼女は机に座り手紙を書いていた。夢中でペンを走らせ、やがて書き終えると声に出して読み始める。
「あの台風の日、あの子を川に落としたのは私です」
そして今、亜希は警察の取調室にいる。野土香との関係や彼女への執着、直人への憎悪について、亜希は他人事のように話し始めた。

■みどころ
面白い。
ストーリーはあれども役者がどのように役を獲得するか?を映したお話。

フィクションの取調室から映画は始まり、そこからは三人の役者の台本読み上げ、台本なしでのリハーサル、リハーサルを反復する…等の工程で進行していく。

観た回で登壇された草野なつか監督、鈴木徳至プロデューサーによると役作りの映画であり、撮影直後では俳優らに本髄の情報を伝えずに撮影したらしい。
それ故に俳優らの直感的な感情を機微に映す。
そこからシーンを反復したり変化を加えたり、シーンを追加する事で役の肉付けをドキュメントする原理的な話で興味深い。

ストーリーは休職して友人と接するようになった亜希がどのように殺人犯になったか?を映していくが、
棒読みだったシーン→そこに感情や表情が追加される→異なるアプローチや新しいシーンを追加する
…の工程が組まれ、やがて複数のそういったシーンが連結し物語が紡がれていくのだ。

段々と臨場感が増し、段々と殺人に至るトリガーを俳優だけでなく観る観客までもが追尾するような感覚になる…といった不思議な感覚を覚える映画でした。
こういった反復や変化球を加えて少しずつ変わる映画は「ジャンヌ・ディエルマン~」に近いものを思わせるが、本作は極めてミニマムな撮影とストーリーで登場人物の感情をドキュメントして積み木のように積みあがっていく様を追うのが独特で興味深かったです。

ある意味で役者のドキュメンタリー映画でもあるし、ある意味で深田晃司『LOVE LIFE』の対話と秘密のやり取り的な映画でもあるし、映画の手法を徐々に足し算して物語を組み立てる原理主義的な映画でもあって面白かったです。
たぶん映画を製作したい人に刺さりそうな映画だと思う。
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