染夫木智也

ペルシャン・レッスン 戦場の教室の染夫木智也のレビュー・感想・評価

5.0
バレたら死!?、命をかけた嘘の語学レッスン


監督は2003年アカデミー賞ノミネートされた「砂と霧と家」を制作されたヴァディム・パールマン監督。

今作は第二次世界大戦中にナチスドイツがユダヤ人に対して行った歴史的大量虐殺、ホロコーストを背景とした映画となっている。

ホロコースト映画といえば、「戦場のピアニスト」「シンドラーのリスト」など有名な作品が存在するけど、その領域に入るくらい素晴らしい映画だった。

物語は、ナチス親衛隊に捕まったユダヤ人の青年が主人公。
移送中のトラック内で、見知らユダヤ人から無理やり食料とペルシャ語の本を交換させられる。トラックから降ろされたユダヤ人たちは次々に殺されていく。その中で青年は自分はユダヤ人じゃない、ペルシャ人だと本を差し出し嘘をついて、ギリギリで助かる。その後、強制収容所に連れていかれた青年はペルシャ語を教えろ、もし嘘ついていたら殺すと命令されてしまう。そのから、青年の命をかけた嘘のペルシャ語レッスンが始まる。

嘘の言葉を教えるという設定は、まさにお笑いのコントのような設定なんやけど、これが実話というのが非常に興味深いし、映画としての見応えがハンパない。

まずはナチスドイツ側の人間的な描かれ方がよかった。
ナチスといえば、理不尽にユダヤ人を殺しまくる組織の印象が強いが、今作では内部の出世を狙うものや恋模様、裏切りなど人間的なやりとりが描かれたり、ペルシャ語を学ぶ大尉に関しては元料理人だったので、戦争が終わったらイランで飲食店を開こうと夢を持っていたりと人間的な一面を知ることができる。

そして、なによりコメディのような設定にもかかわらず、笑うことが許されない圧倒的な緊張感。命をかけた極限状態によって生み出されるハラハラが止まらない2時間がすごい。

嘘の語学レッスンが始めると、まず1日4個の単語を教えてほしいと命令を受ける。0から思いつきで言葉を生み出し、テキトーに皿は"ルト"、フォークは"カルス"、パンは"ラージ"など、必死で言葉を創造していくんやけど、途中で嘘の言葉を作るのはできるが、嘘の言葉を自分自身で覚えることは紙もペンもなく、記憶能力だけで覚えるのは不可能だと気付く。

たぶん自分だったら数日、はやかったら1日でばれて殺されるような超ピンチな状況にもかかわらず、この青年はなんとか必死に覚えながら1日1日を生き延びていく。そんなとき、大尉から覚えるスピードを上げたいからと急に1日40個教えてくれと鬼の無茶ぶりをうける、死ぬ、絶対死ぬ、無理無理という絶対絶命の状況を迫られるのだが、ここからの工夫もすごい。そんな方法があるのかと驚かせられる。

語学レッスンが進むにつれて、大尉の信頼関係が深くなる分、周りのドイツ兵からはユダヤ人だと絶対暴くと狙われたり、本当のペルシャ人が現れたりと青年の命の危機がとまらないし、見ている観客の緊張感もとまらない。

そして、嘘のペルシャ語のやりとりを行った青年と大尉がそれぞれが迎えるラスト、だれがこんなラストを想像できるのかと衝撃を受けるほど見事な展開。ハンパないって!!をこえて、もはやブラボー!!!!

主に青年と大尉のバディもののような映画でもあるため、この二人の演技には終始惹かれるものがあった。特に嘘のペルシャ語を教える役を演じた「ナウエル・ペレ・ビスカヤー」は実際ドイツ語、フランス語、イタリア語、スペイン語を話せるクワドリンガルの人が嘘の言葉を生み出し、教えてるいう配役も素敵だった。

これほど見応えがある映画を見たのは久しぶりってくらい良い映画だったけど、残念なのは公開規模。
東京では立川のみで公開されており、回数は1日1スクリーンのみ、同時期に公開されていたスズメの戸締まりは1日300スクリーン以上。

どれだけいい映画であっても、見られないと評価されなく、価値が上がらないので、一人でも多くの人に見てほしいと応援したくなる映画でもあった。

気になる人はぜひぜひ見てほしい。