MasaichiYaguchi

夢のアンデスのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

夢のアンデス(2019年製作の映画)
3.9
南米ドキュメンタリー映画の巨匠パトリシオ・グスマン監督がチリ弾圧の歴史を描いた3部作、「光のノスタルジア」「真珠のボタン」に続く最新作は、アジェンデ時代の輝かしい歴史が失われ、クーデター後に新自由主義の実験の場となってしまった祖国チリの現状を、作家や彫刻家、音楽家たちの告白を交えて、俯瞰した視点から見詰直すドキュメンタリー。
1973年9月11日、チリで軍事クーデターが勃発し、サルバドール・アジェンデ大統領による社会主義政権を、米国CIAの支援のもと、アウグスト・ピノチェトの指揮する軍部が武力で覆す。
ピノチェト政権は左派を根こそぎ投獄し、3000人を超える市民の虐殺を敢行する。
グスマン監督もドキュメンタリー映画「チリの闘い」撮影後に政治犯として連行されるが釈放され、フィルムを守る為にパリへ亡命する。。
邦題は、「2度と祖国で暮らすことはない」と話すグスマン監督にとってアンデス山脈は、永遠に失われた彼の夢の象徴を意味している。
映画に登場する、このアンデス山脈は言葉に出来ない程に美しい。
だからこそ、独裁政権当時の筆舌に尽くし難い惨状が際立ってくる。
独裁政権がもたらしたのはそれだけではなく、全てにおいて利益を追求すべきという新自由主義に基づく経済政策で人々の価値観を変え、国民の間で激しい格差を生み出してしまう。
監督の盟友で映像作家でアーキビストであるパブロ・サラスの「記録し、どんな時代だったか次の世代に伝えたい。二度と過ちを繰り返さないためいに」という言葉が、本作の全てを言い表しているような気がします。