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プロミシング・ヤング・ウーマンのkekqのネタバレレビュー・内容・結末

4.1

このレビューはネタバレを含みます

うああああこれは凄い…。なんという脚本力と演出力。冒頭からの不可解さと不穏さに一気に引きずりこまれ、中盤からラストにかけてのドラマの緻密さに苦しいほどハマってしまった。

とてもパーソナルな復讐劇であり、踏み込むことの難しい社会のグレーゾーンとの人生を投じた闘い。面白いのは正義のヒロインである主人公の行動が「過去にしがみつく女の行き過ぎた行為」に映り、むしろ復讐に巻き込まれる側の困惑と迷惑に感情移入ができるところ。
ライアンの「過去にひとつも傷のない人間なんていない!」は紛れもない正論であり、ニナの母親の「忘れることをあの子も望んでいる」も遺された人間に求められる前向きな思考だ。
でも、許せないものは許せない。

「もう許されているはずだ」と思い込むのは本人の勝手だが、本気で「許さない」と思う人間がいる限り許されることはない。しかしそんな人間に心から懺悔をしながら生きていくことは不健康な行為であり、償う機会を得られなかった罪は忘れて生きるのが人間の性なのかもしれない。
だからこそ彼女の行為は一つの意味で正しいはずなのに異質で恐ろしい行為に映り、完璧な復讐が果たされた後も私たちの胸には複雑なモヤモヤが残り続ける。

シンボリックなアートのようなフレーミングもバチバチにハマっており、破砕機や貨物列車といった男性的で暴力的なモチーフを仁王立ちで立つ彼女の背景に据え置く演出は痺れるものがあった。

スタイリッシュで現代的な映画であると同時に猛烈に重厚な社会派映画。結局誰ひとりとして正しくは生きられない。
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