幽斎

デビルズ・ソナタの幽斎のレビュー・感想・評価

デビルズ・ソナタ(2018年製作の映画)
4.0
新人の登竜門としてハリウッドで注目される、アメリカのユタ州プロボで行われたフィルムクエストで、10部門にノミネートされ、監督賞と作曲賞を受賞した作品。フランス産にしては珍しい流血の無いゴシック・スリラー。未体験ゾーンの映画たち2020作品シネ・リーブル梅田にて鑑賞。

本作は「ブレードランナー」で全ての映画ファンに愛されたRutger Hauerの遺作。昨年公開された「ゴールデン・リバー」で元気な姿を見せてたが、持病が急に悪化して生まれ故郷のオランダの自宅で2019年7月19日金曜日、息を引き取った75歳だった。主役のFreya TingleyはClint Eastwood監督「ジャージー・ボーイズ」で悲劇的な最期を遂げる娘役で注目されたオーストラリア出身の26歳。他にも「007 カジノ・ロワイヤル」Simon Abkarian、「ブリジット・ジョーンズの日記」James Faulknerが脇を固める。監督は新人のAndrew Desmond。

クラッシックとスリラー、意外な取り合わせの気もしますが「キャンディマン」のBernard Rose監督が、ヴァイオリンの鬼才と称されたNiccolò Paganiniの「パガニーニ 愛と狂気のヴァイオリニスト」を映画化してる。彼の超絶技巧は19世紀に多くの人を魅了し、そのテクニックは「悪魔に魂を売った」と評された。似たタイトル「デビルズ・メタル」はヘビメタで悪魔を呼び出すコメディ、邦題は全くセンス無い。

ホラーと言わないのは理由が有りまして、それは全然怖くない。血糊を期待する方に「金返せ!」と吠えられそう(笑)、本作の主題は謎解きがメインのオカルト風味、だからスリラー。謎解きと言っても全然難しいモノでは無く、提示される伏線と、それを回収する手法に違和感が無く、其処に浮かび上がる真実を丁寧に描写してる事に好感が持てる演出が続きます。

音楽が主題ですので、安いハリウッド的な演出は影を潜め、物語を構築する人間関係も少ない出演者故にしっかり描かれ、ドラマとしても楽しめる工夫も凝らされてる。主演のFreya Tingleyは華が有りヒロインに相応しい。Rutger Hauerを始めとする登場人物も、いい存在感を出して新人監督をサポート。ラストに訪れる意外な展開も含めて、総じて手堅い作品と言える。

欠点を言うならハリウッド的な見せ場とか、フランスらしい古城が活かされ無い、など印象に残る点が薄い感じは拭えない。スリラー派としては、最後に後ろ髪を引かれる様なミステリーが有ると、違った印象に為る捻りも欲しかった。プロットに穴も有るが、ゴシックの雰囲気に素直に身を委ねるのも悪くない。フランス産だが英語音声なので見易い。88分と尺も短いので暇潰しに観るには普通に面白い。

格調高い雰囲気で見せる音楽スリラー。流血が全く無いのでホラー初心者にもお薦めです。
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