波野なみ松

すばらしき世界の波野なみ松のネタバレレビュー・内容・結末

すばらしき世界(2021年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

「三上さんみたいなまっすぐで良い人が長年刑務所に入っていたのは、すごく不遇でお気の毒だった」と思いたくなるところを、絶妙なタイミングで彼の暴力性を見せてくるところで、人間ってものすごく複雑な生き物だなぁと感じさせられる。
私は子どもの頃から今まで、平手以外で人とケンカをしたことがない。足で蹴ったり道具を使ったりするのは躊躇して、できなかった。多くの人がそうなんじゃないだろうか。素手ではなく武器を持つことに、高いハードルがあるはずなのだ。
でも、そのハードルを楽々超える人種がいる。三上さんは喜々として脚立を振り回して人をぶん殴れる。道具を出して人を殴ったらどうなるか、経験があるはずなのに想像が及ばない。介護施設でイジメを目撃したシーンでも、①モップで殴る、②見て見ぬふりして逃げる、の2択ではなく、言葉で仲裁する、という選択肢だってあってもよさそうなものだ。せめて棒を持たずにケンカしようよ…。でも、それが三上さんにはわからない。
弁護士にしてもスーパー店長にしても役所の職員にしても、周囲が温かく、三上さんは恵まれていたと思う。同じ境遇の男性で、三上さんほど穏やかに人生が終われる人がどるだけいるだろうか。
悲しい気持ちになったのは、介護施設の職員はすごくリアルだったこと。私の母がお世話になっていた施設の男性スタッフもあんな雰囲気の人たちだったなぁ…。人が集まらないから忙しい、なのに賃金が安い、仕事がキツい、となるとスタッフの心も荒む。日本の悲しい現実。
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