しゅうへい

すばらしき世界のしゅうへいのレビュー・感想・評価

すばらしき世界(2021年製作の映画)
3.5
「この世界は生きづらく、あたたかい。」

出所した元殺人犯・三上は、保護司の庄司夫妻に支えられながら自立を目指していた。そんなある日、テレビディレクターとプロデューサーがとある内容で、彼にテレビ番組のオファーを持ちかける。それは、社会に適応しようともがく三上を捉えるというもので…。

実在の人物を描いた直木賞作家、佐木隆三の小説『身分帳』を原案とした人間ドラマ。人生の大半を刑務所で過ごした元殺人犯の男と、彼の更生をテレビ番組にしようとするマスメディアの姿を描く。

すばらしき役所広司。『渇き。』(2013年)以来の役所広司。凶暴性の中にある憂い優しさ、終始怪演に圧倒されっぱなし。この一際目を惹くメインビジュアルにも表れてる。元ヤクザ・殺人犯・長期収容者。文句無しの役作りでも、日本を代表する名優たる高貴なオーラが抜け切れない。人生の大半を遠方の刑務所で過ごしてきたのに、ここまで訛りや方言が抜けないものなのか。

真っ直ぐ生きる、正義感の強い正直者が馬鹿を見る。それがフィクション、大衆に向けたパフォーマンスであれば良し。現実では基本的に嫌われ者。世渡り上手は卑怯でズル賢い。ヤクザの社会復帰話、一般人には無縁な話でも、浦島太郎的な彼の視点から見る現代日本は新鮮なようで、やるせない気持ちにさせられた。彼の行いは看過できるものではなく自業自得だけども。

近年観た(ミニシアター作品を除く)邦画の中でもかなり見応えがあった。現代ではまずない大袈裟な描写がチラホラあって少々ゲンナリ。前評判の高さから期待していた程ではなかった。タイトルの皮肉っぷりはロバート・パティンソン主演『グッド・タイム』を思い出す。
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