まぬままおま

辰巳のまぬままおまのレビュー・感想・評価

辰巳(2023年製作の映画)
3.8
暴力と愛は紙一重。

久しぶりに邦画のノワール作品をみた。私はすぐに消されてしまうような世界線だった。

暴力を働くとき、どうしても人と人は接近しなくてはいけない。銃の射程の距離、ナイフで刺す距離、顔面に唾を吐く距離。その身体の距離が精神の距離と共振して、殺意に転じる友情≒人情を形成していく。だがそれは一見愛情にもみえてしまう。

だからこそ本作の一家のような暴力で支配するホモ・ソーシャルな世界では同性愛を排除して彼らの距離の近さはせいぜい友情≒人情であることを示さなくてはいけない。または疑似家族として。そんなことをメロドラマではない本作から改めて実感した。

遠藤雄弥と森田想をはじめとして役者の演技がとにかく素晴らしい。裏社会に本当に生きているようだった。それは瞳の澄んだ鋭さに起因しているのかもしれない。私は裏社会に生きたくもないが消されたくもないので、辰巳のような瞳の鋭さは持ち得たいものだ。

蛇足
邦画でノワールをするには、湿気が必要なのかも知れない。雨、血汗、顔のテカリ。なるほど…