ニコチンロイド

スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホームのニコチンロイドのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます



ちょっとストップ!

もしあなたが「ネタバレだろうと気にしねーぜ!」とお考えの剛の者だったとしても、どうかそのまま何も知らないまま映画館に向かってほしい。

この映画はそれだけの価値がある。
この映画はそういう形で消費するのは勿体無い。

それでも、という方はこれ以上引き止めても意味がなさそうなのでこの先へどうぞ。
あるいは「もう観てきたぜ!」という方もどうぞ。









前半は笑いながらも心を痛め、後半はずっと泣いてるようなそんな映画。

いやあ、2時間半があっという間。
スパイダーマンシリーズの集大成にして、「スパイダーマン」としてのビギニングだった。
スパイダーマンって何なんだ?をとことん突き詰めた映画でありながら、トムホピーターが歩んできたこれまでの道の結実でもあるという凄まじい映画だった。
凄いよね。トムホピーターはこれまでキャプテン・アメリカと戦ったりサノスと戦ったりしてきたけれど、真のスパイダーマンとしてのスタートラインはここなんだもの。

トム・ホランドのスパイダーマンは最高だと個人的に思っている。
だけれども、スパイダーマンというヒーローがここに至るまでには(もちろん生みの親であるところのスタン・リーとスティーヴ・ディッコの功績は語るべくもないが)、前2シリーズの果たした役割というのはやはり大きくて。
しかしながら、トビー・マグワイアのピーターもアンドリュー・ガーフィールドのピーターも、制作上の都合という、どんなヴィランよりも強くてどうしようもない概念によってシリーズが断たれてきた。

それが、ねえ。
まさかここに来て、彼ら自身も、彼らと戦ったヴィラン達も含めて救済される日が来るなんて、まさか思わないじゃないですか。

この映画はスパイダーマンのエンドゲームだ、という表現を見かけたけれども、ちょっと違うと思う。
この映画はスパイダーマンのスパロボだ。
少なくともクロスオーバーによるキャラクターの昇華という点においてはエンドゲーム以上のものがある。
オタクが、もしも3人のピーターが出会うことがあったなら?と思い描くこと全てをやってくれた。
まさか大スクリーンで見ることになるとは思わなかったけどね!

ラスト、全てを失うことを選び取って、孤独になったトムホピーターの姿はあまりにも痛々しく、切ない。
だけどそれは、彼自身がようやく(かつてトニーと出会う以前、一人でヒーロー活動をしていた頃のように)自分自身の意志として、スパイダーマンであり続けることを選び取った結果だ。
スパイダーマンというヒーローは本質的に孤独な存在だ。
加えて今作のピーターは、これまでのシリーズのどのスパイダーマンよりも孤独になってしまった。
あの仮面ライダー=本郷猛ですら、おやっさんや滝和也と言った正体を知る仲間がいたのにである。
正直、事前相談が全然足りてないぞストレンジ💢とか、思うところがないわけではない。

しかし。
彼女の傷を見て、あらゆる言葉を飲み込んで、そのままそっと立ち去って行ったピーターの姿は―――、ピーター・パーカーらしい優しさと、愛情に溢れていて。
ああ、彼なら、ピーターならそうするよな。と、美しさすら感じるほどに納得してしまった。

トニー・スタークからプレゼントされた物はすべて失った。
アベンジャーズの一員としての輝かしい名声も、約束された未来も。
ピーターとしての友人も、保護者も、恋人も、居場所すらも失った。
もうピーターを守ってくれる人はいない。

それでも。
アイアンマンから託された鋼の意志。
キャプテン・アメリカから受け継いだ高潔さ。
そして二人のピーターとの出会いがもたらした、スパイダーマンとしての覚悟と生き様。
それらを胸の内に宿し、もはやハイテクではないけれど、クラシックな手作りのスーツをその身に纏い。
彼はひとり、これからもニューヨークの摩天楼を飛び回り続ける。
何故って?
それが、Your Friendly Neighborhood、
スパイダーマンという存在だから。

以下箇条書きでギャーとなったポイントを。
・トレーラーで「こいつはマードックに違いない!」と言われていた人物をマーベルは否定しましたけど、その通りでしたね。まさかその直後のシーンに出ているとは。
げんなりするような人間だらけの展開の中、良い弁護士が出てきてくれた瞬間の嬉しさと安心感とかっこよさは並々ならぬ物でした。
・フューリーはマジでダンヴァースにフルパワーで1発殴られろ。
・アメスパ2のラストシーンは本当に辛く悲しく、だからこそスパイディが帰還したラストシーンは輝いていて格好良くて、大好きだった。だけど、彼がグウェンを守れなかったというその事実は変わらずに、彼の中にあり続けたはずだ。
そして今回、同じような状況のMJを土壇場で救うことができた。
もうそれだけで、彼は。アンドリュー・ガーフィールドのピーターは、救われたんじゃないでしょうか。
・ピーター2とピーター3のおっさん同士の会話がなんとも微笑ましく、同時に泣ける。「腰痛くてさ」「わかるー、僕も背中痛いんだよね。伸ばそうか?」「ああたのむ」、こんな会話を、トビー・マグワイアとアンドリュー・ガーフィールドのピーターが交わしているという、何気ない奇跡。
トビーピーターと再会したドック・オクの「大人になったな……」という、あり得なかった言葉。あそこでもう鼻水が出るくらい泣いちゃいました。
・ネッド、多分君魔術師としてはストレンジ以上の才能あるよ。
・5年消えてたせいとはいえ「至高の魔術師(ソーサラー・スプリーム)」では無いというストレンジさん。12時間吊られてたらしいがまあロキを30分間落とし続けたバチが当たったんでしょうね。
・ラストシーンのニューヨークの街並みからするとホークアイのドラマとほぼ同時期なんですね。まさかあの後ツリーが倒壊したりするとはね……。


―――一個だけ、愚痴を。
やっぱり日本語版主題歌は凛として時雨にやってほしかった……。

いやね、ファン層の拡大に繋がる、という点では戦略としてアリなのはわかるんです。

ただ、前2曲、スパイダーバースとファーフロムホームの主題歌で、彼らのスパイダーマンに対する理解と愛は本物だと確信しているので、本作の内容ならば尚更……。
彼らに本作を題材にした曲を作ってほしかったなあ、という悔いはやっぱり残りました。

アクロス・ザ・スパイダーバースではどうか彼らの主題歌が再び聴けますように。