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戦ふ兵隊のkazataのレビュー・感想・評価

戦ふ兵隊(1939年製作の映画)
5.0
戦時下製作の国策記録映画『上海』→『南京』と見たんで勢いに乗って、(『北京』は見られなかったから…)武漢への侵攻を描いた国策記録映画のはずが反戦映画として上映禁止(オリジナルのネガは即処分…)となってしまった本作をウォッチ!
(これは日本映画史的=文化財的にも重要な一作でしょう!!)

(『上海』と異なり…)今回は亀井文夫監督自身も従軍してカメラを回したとのことで、より露骨でストレートに「戦争の虚しさ」が表現されているように思いました。

映画の冒頭から日本兵ではなく暮らしを破壊された中国の農民のカットが映し出され、その後も明らかに現地の住民の方に寄り添ったカットが撮られ、編集によってそれらが繋がれていき……って全く国威掲揚プロパガンダ要素が皆無!(笑)

(例えば、行軍する日本兵の日常風景を描いた後で、彼らが立ち去った後の荒地&残骸を映し、すかさず地元民たちがそこを修復するカットを繋げてしまうという…)

そして、隙あらば墓碑や骨壷や遺品のカットをはさみ込み、そこに内地の妻からの無事を祈る手紙を朗読する音声をかぶせて、手紙のもらい手がすでに死んでしまった無常感を表現!

さらに、厳しい行軍の果てにようやく辿り着いた武漢……なのに初っ端が教会での祈り=レクイエム・シーンだし、(見せかけだったとしても)華々しく歓迎されていた上海の行進シーンと比べて、無人の武漢を行進する兵士の情景が超皮肉的!

おまけに、成し遂げたはずなのにクロースアップで映し出された兵士たちの表情に明るさは皆無!

トドメは、(住む家を焼かれた中国人のカットで始まった本作が…)やはり戦争によって破壊された街や暮らしを復興しようとする中国人の日常風景を映して終わるというありさまで……そりゃ検閲でNG当然の素晴らしきアンチ戦争記録映画でした!(笑)

途中で"傷つき捨て去られた軍馬のカット"があるけど……ここは馬好きな人なら泣ける上に、まさに兵士の生き様を象徴したような切なさが溢れる名カットでしたね。
(主人を失った中国軍のロバをバカにするカットが『南京』にあったけど、それの皮肉な対比にもなってるように思えました…)
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