fujisan

アメリカン・ファクトリーのfujisanのレビュー・感想・評価

アメリカン・ファクトリー(2019年製作の映画)
3.5
『人間同士で揉めてる場合じゃない』

2019年、NETFLIXオリジナルドキュメンタリーで、オバマ元大統領夫妻が立ち上げた製作会社の第一作目の作品。

オバマ元大統領の映画好きは有名な話で、毎年お気に入り映画のリストを公表しているのが有名ですが、映画制作会社まで作っていたとは知りませんでした。

参考:ちなみに、2022年のお気に入り映画は以下の通り
オバマ元米大統領、恒例の2022年お気に入り映画を発表 : 映画ニュース - 映画.com
https://eiga.com/news/20221227/12/



本作は、アメリカと中国の文化の違いにフォーカスしたドキュメンタリー作品。

アメリカ・オハイオ州にあったゼネラル・モーターズ(GM)の工場が撤退し、大量の失業者が発生。数年後に中国のガラスメーカー、フーヤオ(Fuyao)がガラス工場を建設し、過去GMの工場で働いていた失業者を雇い入れるが、双方の文化の違いにより、様々な問題が発生する。

問題は、現場リーダーの指示の出し方から休憩の取り方などの小さいものから、そもそもの賃金水準の違いや『労働』に対する考え方の違いといった、大きいものまで。

もともと自動車用のガラスは薄利多売であり、低コストで生産しなければ儲からない商売。中国工場のように厳しい規律で生産性を高めなければならない働き方がアメリカ人にフィットしないため、工場の業績は低迷。

業績のテコ入れが必要な中、今度は労働組合設立を巡って対立が深まっていきます。労働条件向上のために結束するアメリカ人従業員と、組合を作らせたくない経営側。果たしてどうなるか・・・という内容。



多くの方のレビューにあるように、どちらがいい、悪いとは言えない内容で、それを中立的な立場で切り取った、上質のドキュメンタリーでした。

本編では述べられませんが、自動車のフロントガラスは低価格が求められるうえに非常に重いため、自動車の生産場所に近い場所で製造する必要があり、中国企業がアメリカに進出するためには、現地で工場を作る必要があります。

本作が作られたのは2017年当時ということで、まだ中国企業のアメリカ進出は少なかった時代。過去、日米間でも多くの問題があったように、当時はまだ手探りだったのでしょう。

個人的に面白かったのは、日本って、アメリカと中国の中間ぐらいなんだな、ということ。アメリカ人労働者ほど自由を主張するでもなく、中国の工場ほど軍隊式に規律を求められるわけでもない。

ドキュメンタリーでは、『アメリカ人は〇〇だ!』、『中国人は〇〇だ!』という激しいやり取りもあるのですが、そんな中でも、家族を連れてアメリカへ移住した中国人労働者や、中国人青年を家族のように見守るアメリカ人従業員も居て、結局は人間、結局はコミュニケーションなんだよな、と気づかせてくれました。



本作はドキュメンタリーでありながら、意外な展開で終わり、余韻を残します。

それは、2017年から6年経った今、はっきりとした問題となって表面化している問題。

ちなみに、Fuyaoは2021年、アメリカ最大の自動車ガラスサプライヤーにまで成長しています。

当初苦境に立っていたFuyaoが、どうやってアメリカでそれを実現したのか、答え合わせは本編にて。




2023年 Mark!した映画:318本
うち、4以上を付けたのは36本 → プロフィールに書きました
fujisan

fujisan