fujisan

プリシラのfujisanのレビュー・感想・評価

プリシラ(2023年製作の映画)
3.0
ソフィア・コッポラらしい『囚われのお姫様』 映画

「ロスト・イン・トランスレーション」、「マリー・アントワネット」から続く、抑圧されている女性の孤独と不安、そこからの解放を求める、いつものソフィア・コッポラ映画でした。

今年のGWはアニメ以外の大作が少ないこともあって観にいきましたが、もともとレビューでの評判も良くないのでハードルを下げて観たのでガッカリはしなかったですが、期待を超えるものではありませんでした。

「ロスト・イン・トランスレーション」で話題を集めた2003年当時、誰も知らない、日本という、外国からは違う惑星のように見える奇妙な東京の街並みに佇むスカーレット・ヨハンソンはそれだけで絵になり、ストーリーを形作ってくれましたが、「バービー」なんて映画が出てくる現代では古く感じてしまいました。

さらに「マリー・アントワネット」や本作の主人公は実在する有名女性であり、どうしても史実と比べて観てしまう上、本作は夫エルビス・プレスリー亡き後、元妻プリシラ自身が書き上げた自伝が原作になっているので、どうしても彼女の主張が見え隠れし、感情移入出来ないままに終わってしまいました。

14歳の女の子に手を出すロリコン、モラハラ、短気でDVの傾向がある夫エルヴィス。自分の父親と大佐(バズ・ラーマン監督の「エルヴィス」でトム・ハンクスが演じていた)のいいなりで、子どもを生んだ自分は母としてしか見てくれなくなる、という視点。

一方で、自宅にトイレもない貧困の中から歌ひとつで栄光を勝ち取り、好きになった女性と娘を大切にし、仲間や家族を思いやる優しさ持ちつつも、逆にそこを付け込まれて利用され、ボロボロになっていったエルヴィス・プレスリーという側面もあるはず。

実際、彼女自身も外に男を作り(映画でも登場していました)、離婚によって壮絶な人生を送り早逝した娘リサ・マリー・プレスリーとも度々トラブルを起こし、娘の死後はその娘(孫娘)のライリー・キーオと遺産を巡って揉めた事実なんかを知っているがゆえに、この「プリシラ」という作品をどう見たらいいのか、悩んでしまいます。

本作はオープニングからソフィア・コッポラらしい可愛らしい”ガーリームービー” として始まり、1900年代の古き良きアメリカ、カラフルでポップな衣装など、時代感の再現は素晴らしかったですが、彼女自身の陰の側面には切り込まず、単なる”自分かわいい”映画にとどまってしまっていた印象。

生前の娘リサ・マリー・プレスリーは、バズ・ラーマン監督の「エルヴィス」には公式映画としてのお墨付きを与え、本作に対しては『父の描かれ方に問題がある』として許可を与えず、エルヴィスの楽曲も使用出来なかったことが、この映画の立ち位置を表しているようにも思えました。

監督自身、原作を元に脚本を起こす際に、プリシラの意見も参考にしたとのことで、ただプリシラの視点から歴史をなぞるだけのイマイチな脚本。展開に抑揚もなく、淡々としたまま終わったときは、え?ってちょっとびっくりしました。

ソフィア・コッポラの、あくまでの自分のスタイルを崩さず、時代にアップデートして行かないの頑固さは貴重なのかもしれませんが、好き嫌いがかなり分かれる映画なのかな、と思いました。



そんな印象を受けた映画でしたが、俳優の演技と衣装は素晴らしかったです。

「Saltburn/ソルトバーン」で、バリー・コーガンの相手を務めた長身イケメンのジェイコブ・エロルディ演じるエルヴィス・プレスリーはオースティン・バトラーに負けない存在感でしたし、プリシラを演じたケイリー・スピーニーは、秋に公開される「シビル・ウォー」にも登場するのが今から楽しみになる名演でした。

劇中、グレイスランドの豪邸内で、いろんな服を着させてもらう20歳ぐらいのプリシラ。エルヴィスから『柄ものは似合わない』『その色は似合わない』 ってズバズバ言われて不機嫌な仕草も可愛かったですが、同時にエルヴィスの非凡なセンスを感じさせて面白かったです。
総じて、結婚するまでのストーリーの方が良かったですね。



いくつか、面白かった記事を紹介しておきます。

なぜソフィア・コッポラはプリシラ・プレスリーの半生を映画化したのか? | Vogue Japan
https://www.vogue.co.jp/article/priscilla-sofia-coppola-interview

プレスリー家の愛と悲劇の物語、リサ・マリーVSプリシラ:映画『プリシラ』制作で明らかになった新たな真実とは?【辰巳JUNKコラム】
https://www.esquire.com/jp/entertainment/entertainment-news/g60437346/presley-family-story/
fujisan

fujisan