広島カップ

陸軍の広島カップのレビュー・感想・評価

陸軍(1944年製作の映画)
4.0
冒頭に「陸軍省後援」「情報局國民映画」とあり、一目でそれと解る昭和19年に陸軍省の依頼を受け木下惠介監督が作った國民の戦意高揚を狙った作品。

本作は慶応ニ年に小倉が尊王倒幕の長州藩の奇兵隊に攻め込まれているシーンから始まり、その後日清・日露、満州事変、上海事変と続く日本史における戦争の歴史を繋いでいく中で、小倉に暮らす一家三代の様子を描いていく。
この一家が三代に渡って「お國の為につくすのが日本國民としての務め」と考え行動する様子を映している。

戦意高揚というテーマが初めから明らかな作品を今の時代に観ると感じることが色々あるのだか、当時の人々が感じていたであろう肝心な"お國の為"という点については意外に伝わって来ない。
観客の生きる時代の違いは当然あるだろうし、もしかしたら木下監督がその辺りを薄めて作ったのかもしれない。

このような作品を作るにあたり木下監督にも内心に葛藤があっただろうし、熱演をしている笠智衆、田中絹代を始め役者達の苦悩も伝わってくる。
出征して行く息子を探して群衆の中を駆け抜けて行く母親(田中絹代)を追いかけたダイナミックなラストのシーンは"お國の為"を超えた母子の絆を観せている。
一家の頑固な二代目笠智衆のスッと伸びた背中、出征する息子を見送る田中絹代の涙が印象的だがコレは"お國の為"云々とは全く関係ない所でコチラに伝わって来る感動的なショットになっていた。

本作完成後に木下監督が軍から睨まれた事がよく解る。
両手を合わせて我が子を見送る母親のラストショットを観て軍部は「木下のヤロウ、やりやがったナァ!」と思ったに違いない。
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