波野なみ松

カセットテープ・ダイアリーズの波野なみ松のレビュー・感想・評価

4.2
夫がブルース・スプリングスティーンの大ファンで、公開時に観てめっちゃ褒めていた映画。ファンだから下駄をはかせて評価してるんでしょ、と思っていたけれど、ファンじゃない私が見ても素晴らしい映画だった。
移民差別と田舎社会の閉塞感の中、家庭も家父長制の中で古い価値観を押し付けられ、作家になりたいけど自分なんか、と自己評価の低い青年がボスに出会ってから自分を変えていく。
初めてボスの音楽を聞いたときの衝撃を鮮やかに描いていて、10代の頃に出会った音楽や小説や映画ってそれくらい大きな存在だったなぁ、と甘酸っぱく思う。若い頃の音楽への出会い、人生を救ってもらった経験は宝物だ。(私の神は大槻ケンヂだったけれど。)
ここのレビューの点数があまり高くないのは、若い頃音楽だとかアーティストに心を奪われた経験がない人たちなのかしら?
被差別者家族として育った主人公が家族や田舎町での偏見と自分の才能に葛藤しながら人生を見つけていくという点で、「コーダ あいのうた」と同じ構造で、同じくらい評価されてもいい映画だと思うんだけどなぁ。
この映画がいいなぁと思ったのは、まず、主人公の周囲が実は良い人だという点。父親をはじめとする家族、隣人のおじさん、幼馴染みとその父親など、みんなとてもあたたかい。
最初イヤなやつだと思った父親も、実はそれほど父権的でもなく、従順で抑圧されてるかに見えた母親も言うときはハッキリ言う人で、兄より辛い立場にある妹も裏ではちゃんと楽しんでいたりして、見ていてなんだか救われた。
主人公が家族を捨てて勝手に出ていってたら、単なるボスファンだけのサブカルムービーになっていたと思う。
だからこそ、後半のスピーチのシーンでは涙がとまらなかった。

本筋とは全く関係ないけれど、私の印象に残ったシーンはこれ。
父「教育を受ける意味を分かっているか?」
息子「見識を広め、世界を知り、よくするためでしょ?」
父「違う。いい職に就くためだ」
…あちゃー、教養の有無が如実に表れてる答え!!
うちの坊主が来年小学校に入学するにあたって、最近教育の意味を考えるから、よい気付きになった。
見識を広め、世界を知り、よくするため!
それもボスの教えの一環に感じる。
私はブルース・スプリングスティーンファンじゃないけれど、ボスのこの言葉が好き。
No one wins unless everybody wins.
ボスこそアメリカ大統領になったらいいのになぁ。
波野なみ松

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