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愛欲のセラピーのfujisanのレビュー・感想・評価

愛欲のセラピー(2019年製作の映画)
2.4
”自由”と”身勝手”のバランスの難しさを感じる作品。

今年のアカデミー賞で作品賞や監督、脚本賞など5部門にノミネートされているジュスティーヌ・トリエ監督の「落下の解剖学」の予習として視聴しました。

個人的にFilmarksの作品評価は結構信用しているので、かなりハードルを下げ、勉強として観た映画でしたが、さらにその予想を下回ってきてしまった作品でした。。

主演を務めるキャリー・マリガン似のヴィルジニー・エフィラと、「落下の解剖学」でも主演を務めるサンドラ・ヒュラーなどの名演によって最後まで見ることはできましたが、主人公シビルの行動にずっとイライラさせられる内容で、正直、私には何が言いたかったのかよく分からない謎映画でした。



(以下はネタバレ含みます)

主人公のシビル(ヴィルジニー・エフィラ)は30人以上の患者を抱えるセラピストでしたが、執筆活動をやりたい!ということで患者を他の医師に引き継ぎ。長年の患者から身勝手だとなじられても平気のシビル。

しかし、いざ書こうとしても書けず、まっしろなノートPC画面を見るばかり。そんなところに新規の女性患者マルゴから診てほしいとの電話。一旦は断ったものの、女優で同僚俳優の子どもを身ごもり、キャリアが断たれそうなマルゴの差し迫った悩みを聞くうち、あることを思いついて依頼を受けてしまいます。

なんと、シビルはマルゴの差し迫った悩みの話をそのまま小説に。医師の守秘義務もモラルもあったもんじゃないですよね。しかも、マルゴの愛欲に満ちた生々しい話を聞くうちに、自分も元カレとのことを悶々と思い出す始末。

堕胎を悩むマルゴに対し、それを決めるのはあなた次第よと冷たく言い放ちつつも、一緒に撮影現場に来てほしいというマルゴについて行き、監督含めた三角関係の愛憎渦巻く現場で小説を執筆するシビル。

さすがに一旦は自責の念で自我崩壊するものの、そのまま勢いで何故かマルゴの元カレ俳優と激しいセックス。止めていたお酒も再開、また、その後偶然再会した自分の元カレともいい雰囲気になってしまいます。

シビルは結婚しており、互いの連れ子が居て4人家族。しかも自分の連れ子は元カレとの子どもです。夫は子煩悩で分け隔てなく家族に愛情を注いでくれている優しい人。それななのになー、って感じです。

映画であればこの辺りで雷に撃たれるような大きなショックがドーンと来て、一旦どん底に落ちた主人公が周りの優しさに気づきつつ再生していく、みたいな展開があったりもしますが、この映画はさにあらず。

シビルの書いた小説は好評。しかも、元ネタにされた人たちも何故か怒りません。

そして最後は、『今は新しい作品を書いているわ。人生はフィクションであり書き換え可能。全ては自分次第よ』と言い切って、自分の道を突き進んでいく、という、ちょっと自分の理解を超えた映画になっていました。



振り返ってみると、結局『愛欲でセラピー』されたのはシビル自身、ということなのかもしれません。

ジュスティーヌ・トリエ監督は男女平等意識が高い方らしいので、女性の解放というか、自分の人生は自分で作れるのよ!っていう強いメッセージは良かったと思うのですが、脚本がいまいちなのか、爽快感がなく嫌な気分だけが残る感じでした。

以上、「落下の解剖学」の予習としてみた映画でしたが、どうやら最新作も妻は作家で、夫婦の関係性も似た映画だそう。

本作の脚本は監督の夫のアルチュール・アラリですが、最新作ではジュスティーヌ・トリエ自身が脚本を務めたようなので、本作とガラッと変わって良い作品になっていることを期待します!
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