kekq

ペイン・アンド・グローリーのkekqのレビュー・感想・評価

3.7
老いて知る世界。
マイノリティとして、人間として生きることの過酷さを描き続けてきたアルモドバル監督の辿り着いた境地。

今まで許せなかった人たちや今まで感謝を伝えきれなかった人たち、ひとりひとりに慈しみを捧げ、恨みや後悔も引っくるめて優しく綴られる物語がとても良い。

社会や世界に対する憤りは個人の中にある執着とエネルギーがあってこそ成り立つものであり、枯れて弱ることで見える景色があることを教えてくれる。この辺りのテーマは「ラスト・ムービースター」や「ファントム・スレッド」でも描かれており、いずれ老いる身としてはとても興味深い。

精力絶倫のイメージの強いアントニオ・バンデラスが演じるくたびれたおじいさん役はキュンとくるほど味わい深く、ペネロペ・クルスの起用の仕方も母に対するリスペクトが露骨に溢れていた。

ただ平和ボケした老人の人生振り返り映画ではなく、危ういシーンもかなり多く、伏線も回収されたりされなかったりで、映画として見せる巧さはさすがの仕事。

自伝的な作品ではあるが、全体に切なさが漂うのは、現実では叶わなかったたくさんの後悔を詰め込み、吐露しているように見えるからかもしれない。
悔いることもまた、生きること。
次回はギンギンに尖った変態映画に回帰してくれたらファンとしてはたまらない。
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