ひこくろ

主戦場のひこくろのレビュー・感想・評価

主戦場(2018年製作の映画)
4.5
ものすごく刺激的で勉強にもなる。そして何より、いろんなことを嫌でも考えさせられるドキュメンタリー映画だった。

扱われているのは慰安婦問題で、その実態に迫っていくのはもちろんだが、映画はそこに留まらない。
賛成する側、反対する側、両者に対し同等ににインタビューすることで、歴史を捉えることの難しさも描き出す。

どちらもおそらくスタートは「あの時、何が起きていたのか」という関心だったはずだ。
しかし、賛成・反対の立場が生まれてからは、物事の捉え方が変わってくる。
自分の立場にとって都合のいい資料や事実だけが取り上げられ、それを武器に逆の立場を否定しにかかるのだ。

例えば「慰安婦問題などなかった」と語る人たちは、元慰安婦の証言が出てきても「矛盾している箇所がある」という理由で、それを全否定する。
一方で程度の差こそあれ、「慰安婦問題はあった」とする人たちも、状況はさほど変わらない。
さまざまな資料や、証言、事実などが明らかにされるが、両陣営ともにそれを都合よく「武器」にしようと躍起になる。
恐ろしいのは、主張が強くなればなるほどに、そのやり方がエスカレートしていくところだ。

何があったのかを知るのなら、元慰安婦の言葉を土台にすべきなのに、賛成派も反対派もほとんど誰もがそこに踏みこまない。
あくまでも理屈だけをこねくり回し、「事実はこうだ」と叫ぶ。
多くの人が登場するのに、元慰安婦の心情や個人的な感情にまで踏み込んだのは、渡辺美奈という人だけだった。
賛否うんぬんよりも、この「主張だけがあって、人を見ようとしない」姿勢はなんとも恐ろしい。

そうして、映画は数々の主張を映しながら、「なぜ慰安婦問題を否定しようとする人がいるのか」に迫っていく。
反対を唱える否定派(映画では「歴史修正主義者」と呼ばれる)人たちの繋がり、その根底にある思想、描こうとしている未来像。ここら辺が明らかになっていく過程には、また別の怖さが見えた。

映画は「慰安婦問題はあった」という賛成側に立っているので、決して中立とは言えない。
描き方も、歴史修正主義者を批判するスタンスのほうが強い。
だから、これを観て賛成と簡単に答えを出すのは、問題だろうとは思う。
この映画すら、絶対的な事実ではない。
ただ、少なくともいろんなことを考えさせられる、という意味ではとんでもなく刺激的だった。

最後の字幕は、慰安婦問題を超えて、現在の僕たちにはっきりとした「問い」を突きつける。
やたらときな臭くなってきたいまこそ、観て考えるきっかけを与えてくれる。
そんな意義のある映画だと思った。
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