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アンダー・ユア・ベッドのbutasuのネタバレレビュー・内容・結末

アンダー・ユア・ベッド(2019年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

B級ホラーを見る感覚で観始めたのに、観終わってみたらまさかの純愛ラブストーリーだった。…それは言い過ぎかもしれないが、とにかく、心が震えるような傑作だった。

主人公の三井(高良健吾)はハッキリ言って誰の目にも明らかなヤバイ奴である。学生時代にたった一度だけ一緒にコーヒーを飲んだ千尋(西川可奈子)のことが忘れられず、興信所で居場所を突き止め目の前に住んで盗撮盗聴などのストーキングを繰り返し、最終的には彼女の家のベッドの下に潜り込む。本当にひたすらやばい。演じたのが高良健吾でなかったらキモすぎて目も当てられない。

しかし千尋が夫からDVを受けている事実が明らかになり、我々観客の見る目は急に変わってくる。何しろこのDVがあまりに凄惨でむごいのだ。これまで色々とバイオレンスな映画を観てきた自負があるが、DV描写としては群を抜いてえげつないと思う。彼女の身体に刻まれたあまりに痛々しい傷の数々。夫があえてその傷を抉りながら絶叫する彼女を強姦するシーンはキツすぎて吐きそうになった。

すると観ているこちらはこのキモストーカー男である三井を応援してしまうようになる。頼むから彼女を救ってやってくれ、と祈るような想い。ところが大チャンスが来るのに、三井は怖気づいて何も出来ない。部屋に戻り壁に貼った彼女の写真に謝り続ける三井の姿はあまりに小さく、しかし彼のこれまでの人生を思えば当然この男が行動に移せるわけもないという説得力がある。

だがこの件や、同族嫌悪を感じていた男の逮捕、彼女の逃亡未遂などを経て、腹を決めた三井は再びベッドの下に潜り込む。「お願い!聞こえてるなら私を助けて!」の絶叫とともに部屋に入った三井は、とうとう夫を殺害する。「一体あなたは誰」という彼女からの問いかけに三井は答えない。名乗ったところで彼女が覚えているはずもないから。

ラスト、交番で自供する三井のもとに駆けつけた千尋が「三井君!」と叫び、驚いた三井が振り向いて小刻みに震え出すところで映画は終わる。三井の願いは実は最初からただ一つ、「もう一度名前を呼んでもらいたい」だったのだ。このラストシーンでは本当に泣きそうになってしまった。経緯はどうあれ、親にも同級生にも教師にも"存在を忘れられて"きた三井を、千尋が"思い出し"て名前を呼んだのだ。この瞬間の高良健吾の表情が本当に素晴らしい。

そう、「この主人公は高良健吾じゃなくない?」は鑑賞時誰しもが感じること。だってこんなに顔が良かったら、誰からも忘れられてしまうなんてありえないから。クラスどころか学校中の注目の的になってもおかしくない。だが観終わった今、高良健吾じゃないとキツかったかもな、と思う。何しろ三井は"純愛"と"狂気"と"キモさ"のギリギリのラインで出来ているキャラクターなので、残酷だがやはり顔面が良くない俳優がやって映像的に"キモさ"が際立ってしまった場合、本来の三井がブレてしまうだろう。あとシンプルに演技力が圧巻。千尋役の西川可奈子もほとんどのシーンで裸で暴力を受けているようなとんでもない役なのに、逃げずに物凄く体当たりの演技を見せており、かつ少女のような純粋な輝きを放っており素晴らしかった。

暴力がキツすぎてもう観たくないがとても良い映画だった。
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