にしやん

影に抱かれて眠れのにしやんのレビュー・感想・評価

影に抱かれて眠れ(2019年製作の映画)
3.0
横浜の街で酒場を経営し、周囲の人々にも慕われていた主人公の画家が、街を支配する悪との対決に巻き込まれていく姿を描く、東映Vシネマの「任侠もん」の流れを汲んだハードボイルド作品や。「暴力団新法」やとか「暴力団排除条例」の制定以来、従来型の反社会勢力は表面上は影を潜め、所謂伝統的なヤクザ映画でさえなんか下火になってしもた中で、最近ではめったにお目にかかれへんこの手の任侠のムードが漂う邦画ハードボイルドもんっちゅうんが逆に新鮮や。主演の加藤雅也は今時ハードボイルドが演じられる数少ない貴重な役者かもしれへんな。冒頭のモノトーンを活かした画作りやとか、昭和の匂いのする横浜・野毛のローケーションがなかなか効いてるわな。

人物の設定やとか、シークエンスの雰囲気やら余韻やらはそこそこええ。主人公やけど、実力はあんのにあえて表舞台に出ようとせえへん画家、日常は自分の経営してる2軒の飲み屋をハシゴするだけ、ヤクザとは無縁やけど街の不良等には頼られてるちゅうなんとも二枚目過ぎるオッサンや。当然女にもモテモテで二人の対照的な女性が絡んでくんねん。片や恋人やないけど男と女の関係の高級クラブのママ、片や10年来純愛を通してる人妻の女医。なんかもう、オッサンの理想というかロマンというかベタベタというか、なんか好き放題なんとちゃうの?男って単純やな。自然とニヤついてまうわ。

それに、まともに画も描かへん画家が、ただ女のためだけに画を描くっちゅうんも、ちょっとカッコ良すぎとなんとちゃうの?黙々と画を描く男とじっとそれに耐える女のシーンは、緊迫感があるんと同時になんとも刹那的でめちゃめちゃええシーンでこの映画のいっちゃんの見せ場かもしれんな。それと、主人公と女医とが街の定食屋で真っ昼間から向かい合って一緒に、コップ酒をすすって呑むシーンもええな。オッサンがどういうんが好きかっちゅうんをよう分かってるわな。それに、役者で言うたら火野正平がほんまええ味出してて、ストーリーにええアクセントを与えてる。巧いの一言や。

せやけど、人物設定やところどころのシークエンスの良さはありつつも、残念ながらストーリーは破綻してしもてる。主人公の子分が少女を次から次へと風俗から足抜けさせるプロットと、その背後にあるヤクザ同士の抗争のプロット、それと前述の主人公と女医とのプロットが殆ど整理がつかへんまま、ごっちゃ混ぜに展開してて、何が何やら分からんもんがあるわ。まず子分の一連の行為の動機が意味不明。主人公と女医との10年来の関係もちょっと説明不足で唐突感が拭えずや。それに高級クラブのママやとか、スナックのママなんかも途中で消えてもうてるし。途中で消えてまうんやったら、そもそも要るんかっちゅうこっちゃ。二時間足らずの映画に余計なもんを入れすぎなんとちゃうか。

途中の展開ごちゃごちゃで、終盤のまとめ方もちょっとダラダラしてて、何がどういうことかわからんままラストへ向かっていくねんけど、クライマックスのシークエンスだけは大変キレがあって、ええ余韻が残るわ。主人公への容赦のあれへん扱い方についてもブレが無いし。ヤクザの幹部が主人公を評して「あれが堅気に見えるか?」のセリフにはちょっと吹き出してしもたわ。この映画の中でわしがいっちゃん好きなセリフや。確かに、まあ、あんな堅気はおらんわな。わしも思わず一緒にツッコミ入れたなったわ。ただただ、加藤雅也が渋うてカッコええ映画やな。
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