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ナイトクルージングのgenarowlandsのレビュー・感想・評価

ナイトクルージング(2018年製作の映画)
3.9
先日、視覚障がいある人びとの世界を視覚障がいのないロウ・イエ監督が五感に伝わるように作った「ブラインド・マッサージ」にいたく感動しましたが、こちらは全盲のミュージシャン加藤秀幸さんが映画制作するプロセスを追ったドキュメンタリーです。

数多くのプロフェッショナルとのやりとりがとても興味深く、言葉でうまく表現できるかわからないのですが、レビューを試みてみます。

以下、内容です。ちょっと長いです。







加藤さんはミュージシャンであることからも、聴覚が天才的に優れ、空間認識も室内の天井高をほぼ言い当てられます。生まれつきの全盲なので、空間は自分を中心としたドームのイメージをお持ちで、無限大の空のイメージは難しいとのこと。なので、空をドーム、雲はドームの外側に張り付いているとスタッフが説明。

その加藤さんが作ろうとするのは宇宙戦争。アクションものです。

まず、スタッフとイメージを共有するために、レゴのブロックを使って人物の配置やカメラの位置関係を共有していきます。

登場人物の姿形を決めるために、博物館で人間の頭蓋骨や模型から、標準的な<美しさ>の形状を把握します。「ブラインド・マッサージ」でも、来院する顧客が口にする<美>への憧れが描かれていました。美醜のない世界って素晴らしいと再び思いました。見えている者にとって、見た目の美しさにどれだけ労力を払っているか。加藤さん曰く、「顔は一つ、美醜の違いはわからない」。

色のイメージをつかむために、色相環で表して濃淡を言葉で共有します。

身体の動きはアクションとして大切。CGと実写なので、以前に喧嘩して勝った時の動きを基に洗練させていきます。

俳優は選ぶけれど、声優が話します。音のタイミング、スピード等、細かい指導を加藤さんが入れていきます。主役は視覚障がい者の設定。

驚いたのが、コンピュータの検索の音声機能が超高速なこと。誰も聞き取れない。

基本、触って認識します。絵コンテは点字のように凹凸があるもの。

光の当たり方で表情の印象が変わることや陰影のイメージがつかめないでいました。見えるって光なんだと改めて思いました。

加藤さんの空間認識は、音の反射のデータを蓄積して理解しているので、AIのセンサーと似ていると言います。

自動車を運転する体験もし、映画に必要な要素を体験・体感してからイメージ化していきます。

加藤さんは対戦型ゲームのスキルが激強です。作りたいアクション映画のイメージは、VRゲームに近いと感じました。

テーマは宇宙戦争のアクション映画ですが、導入部分の短編をまず制作。見えないゴーストを視覚障がい者がテレパシーもつ見える人と協力して見つける作品です。見えないゴーストをどう認識していくのか…

本ドキュメンタリーの公式ホームページが面白いです。

イメージを共有するまでには時間がかかるのは、誰も同じ。相手を知りたい、世界を共有したい気持ちが大切だと互いにわかります。その後はバーチャルな世界を共有しつつあるので、熱くなっていました。

スタッフとのやりとりがおもしろかったです。白熱してくると、「だからこの黒いブロックをカメラとすると…」「黒わかんねーよ」。
加藤さんが見えてないことはすっかり忘れ去られていました。

加藤さんは全盲ですが、視覚障がいの中の全盲の割合は10%。

<見えること><見えている世界>って何なんだろうと、考えさせられました。
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