にしやん

火口のふたりのにしやんのレビュー・感想・評価

火口のふたり(2019年製作の映画)
3.3
結婚前に昔の恋人と再会し、抑えきれへん衝動の深みにはまっていく危うい男と女を描くR18+指定作品や。

この作品のメインキャストは、柄本佑と瀧内公美の実質二人のみ。実質的な登場人物は二人やのに、観てるもんにそれほど飽きせへん脚本展開なんは、脚本家荒井晴彦の長年のキャリアからくる巧さなんやろか。最後までそれほどダレることもなくちゃんと面白く観れたわ。それに、通常二人芝居の作品って舞台的になってしもたり、どこか実験的な匂いがしたりすんねんけど、全然そうはならんと、画面自体の印象はごくごくの普通の日常の延長にしか見えへんかったところも良かったと思うわ。狙ったんか、予算なんか分からんけど、結果としては、キャストが実質二人のみっていうんは、男と女の物語として、その濃さや変態さという面でええ方へ出たんとちゃうかな。

それでもいくつか気になったこともあるわ。まず、とにかくセリフに説明が多すぎる。始まって10分くらいは二人の説明セリフのオンパレードで、こっちはそれについて行くんが大変やったわ。オヤジがどないした、オカンがどないした、親戚がどないしたとか、ほんま正直ちゃんと理解でけへんかったわ。男と女の関係性だけがわかればええんとちゃうんのん?正確な親族構成の情報とか要るんかいな。それに冒頭のオヤジからの電話かて要らんと言えば要らんし。正直手紙でも、メールでもええもんな。

それと過去の二人の情事を撮ったモノクロの写真やけど、自撮り風にはしてるけど、どう見てもプロが撮ってんの が丸分かりやん。構図バッチリ、ピントやら露出やら被写界深度やら全部ドンピシャで、それにレフとか当たってるってどうよ。映画のストーリーとしても二人の関係性からしても、これは相当不自然や。ここは議論が分かれるかもしれんけど、わしは、このモノクロ写真は、プロが撮るにしたかて、もっとド素人の自撮りエロ写真風にするべきやったんとちゃうかな?なんせ、若気の至りやねんやから、もっともっと下品にせなあかんと思うわ。なんかあの写真が嘘臭く見えてしもて、映画自体も嘘臭くしてるわ。それと、オープニングでアルバムの写真を曲に合わせて一通り見せた上に、(たぶん)同じ写真を今度は役者のセリフによる説明付きで見せるっていう演出なんかもどうなんやろな。

ところで、この映画は二人の映画やねんけど、どっちかと言うたら女のほうがメインの映画。男のほうは、ほとんど何も考えてへんごく普通の一般的な「男」の象徴みたいな存在やな。最初は元カノが結婚直前やっていうんが歯止めになってたんやけど、一旦タガが外れてまうと後はもう本能剥き出しになってるわな。

この映画の本質を一言で言うたら、主人公は女にも関わらず、映画の視点は常に男ということなんとちゃうかな。だってやな、普通考えてみいや。この設定の男と女とを入れ替えたとして、映画自体成立するかっちゅうっこっちゃ。絶対に無いって。そもそも女が「あんたの体が忘れられへん」とか思うっちゅう発想自体が男のあほらしい妄想やろ。こういうフェミニズムな時代にも拘らず、なかなかの女性蔑視っちゅうか、男性優位な映画やんな。別にどういう映画作ろうが勝手やろけど、単純に今の時代の空気からは完全にズレてる話やなと思たわ。五十のオッサンが言うんもなんやけど、一言で言うたら「なんか古臭い」っちゅうこっちゃ。使ってる音楽かてなんか昭和な匂いしてるしな。なんぼ震災後の将来という設定にしたところで、作り手の側のお里が知れるわな。

ラストやけど、途中から最後どないすんのやろと思って観てたら、「えー、何これ!」みたいな意外な展開やわ。自衛官がホンマ可哀想。いや、ちゃうな。結果としては、自衛官、良かったんちゃうか?わしは正直、あのベッドでは絶対に寝たないわ。もう、ほんま、勝手にせーややで。

まあ、いろいろ言いたいこと言わせてもろたけど、瀧内公美の熱演は立派やで。よう頑張った。勇気もいったやろ。映画女優としての覚悟があるわ。それに、セリフも含めてええ芝居しとったで。ホンマ頑張ってほしいわ。
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