月うさぎ

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーンの月うさぎのレビュー・感想・評価

4.0
アーネストの場合は、あまりにもおバカさん。
アーネストの場合は、あまりにも悲しい♪
って歌いたくなりました。
映画の間中、彼がバカすぎてイラっとしてました。
オセージ族もお人好し過ぎです。

主人公の名はアーネスト。Ernestとは、誠実で正直な人を意味します。
確かに彼は誠実ではあったかもしれません。
おじのKINGに対してはね。

私は、本作は社会派な映画で、深い闇が描かれると思っていたのですが、長い映画の割にストーリーはいたって単純でした。実話ベースだから仕方ないのかもしれませんが、ジェントルな皮を被った金の亡者の話だったねという結論。
監督の円熟さを堪能できるきっちり仕上がっていて心に残る映画だとは思いましたが、深く刺さるテーマや、観終わった時のカタルシスは無かったです。

一連の事件を調べるFBI捜査官トム・ホワイトをディカプリオが演じる予定だったというので、おそらく当初は「犯罪」がストーリーの中心だったはず。
フーバー時代は暗黒時代というイメージが強いですが、この映画ではFBIは個人を守る正義の側の人です。意外でした。
スコセッシ監督はオクラホマで取材をする事によって、事件の内側から描く方向に脚本を変更したそうです。
つまりラブ・ストーリーとして。

デ・ニーロとディカプリオはスコセッシ映画の常連ですが、3人が揃うのは初めてだそうです。演技はもちろん鉄板。ディカプリオの複雑な立場、デ・ニーロの善人面と強面の演じ分けは強い印象を残します。
それは人間に深みと魅力を与えますが、おかげで勧善懲悪のスッキリ感は全くなくなります。
残るは欲にまみれた人間ってしょうもないよね、という残念な気持ち。刑も結局は減刑釈放だし。

オセージ族の言語をフューチャーし(あえて字幕なしの部分もある)できるだけ史実を曲げないように心がけたという事で、アメリカ史を知る上でも意義のある映画でしょう。
だって我々多くの日本人は大昔の西部劇でしかインディアンを知りませんから。
現在のアメリカはネイティブ・アメリカンの復権と侵略の事実を伝える事に真剣に取り組んでいるというのが今年渡米した折の私の印象でした。
インディアンという言葉を差別用語として禁ずるという小手先手段ではなく、事実を直視する方向へです。
それは大きな前進で評価すべきことでしょう。
この映画もその流れの中で捉えるべきかと思います。

エンディングでさっさと席を立った人はお気の毒様。
この映画の素晴らしい余韻を味わう事が出来ないんですから。
虫の羽音から始まった自然の音に包まれた数分間
人工的な音のない世界には、こんなにも様々な音に満ちあふれている。
雨音、雷鳴、鳥の囀り、蝉の声、コヨーテの遠吠え…etc.
都会育ちのスコセッシ監督から都会暮らしの我々への贈り物でした。
月うさぎ

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