月うさぎ

トゥルーマン・ショーの月うさぎのレビュー・感想・評価

トゥルーマン・ショー(1998年製作の映画)
3.4
お気に入りのyoutuberのチャンネル登録なんかしちゃってる人に、気持ち悪い!サイコパス!とか胸糞映画!なんて言う資格、ないですよ😎
「トゥルーマンショー」を観て夢中になっている人々の姿は、すなわちあなたです。

テレビを観て好き勝手な感想を言い合ったり、スターの推し活をしたりといった事なら身に覚えがない人はいないでしょう。
番組内で使われたり宣伝された商品は全部通販で買えるなど、現代のネット社会の予言みたいです。

私にはあまりそういう感性はないんで、だから「トゥルーマンショー」が実際にあっても観ないと思いますが…。
けれど、このタイプの人は必ずいる。しかも少なくない割合で。

デフォルメされた「リアル」なのです。
社会問題として考えた時も。我々がドラマを観たがるのは何故なのか?という心理学的な意味でも。

ドキュメンタリーでない以上、映像化された情報が全部嘘なのを私たちはわかって映画やドラマを観ています。役を演じる役者の演技と知りつつ、本気で怖がったり感動したりしますよね?この映画はそこをあえて突いてきている訳です。
トゥルーマンをジム・キャリーが演じている事を知らないで観る人は少ないでしょうし、彼のオーバーな演技は「ドキュメンタリーじゃない感」をはっきり打ち出しています。
「生の人生」を覗き見る番組と謳っていながら、映画のこっちにいる私たちは、それも嘘なのを知っていると言う二重構造です。他にないタイプのメタ映画ともいえます。

映画ファンなら撮影現場の裏方を描いている点でも興味深々なはず。メイキング映像みたいなシーンもあって🎬面白いです。エキストラの仕事の様子とか、雨を降らすシーンとか、書き割りの風景のクローズアップとか、普段見えないところを見せています。

人は時に自分の世界を疑います。
本当の自分、いるべき世界はここではないのではないか?

もしも、自分の人生丸ごとコントロールされたものであり、家族も含めて周りは全部俳優かエキストラだったなら?
ホームタウンのシーヘヴン島は、実はハリウッドに作られた巨大なハリボテのセットに過ぎないとしたら?
知らずに生きていたのは自分だけで、みんなが自分の人生を眺め、日々のエンタメとして楽しんでいたとしたら?

これってかなりキツい話ですよね。
誰も信じられない!が、単なるフレーズではなくて「事実」なのですから😱

主人公トゥルーマンが気付くキッカケは?違和感はどうやって確信に変わったか?そして彼はどういう行動に移したのか?結末は?

あり得ないイタイ設定の所をジム・キャリーという表情豊かで陽気なキャラの俳優が演じる事によって、それとラブシーンを極力省く事によって、ハートウォーミング・コメディとして成立させているように思います。

ファンタジーとは異なる種類の、現実が危うくなりひっくり返るショックを伴う異世界感といえば、「マトリックス」「アイランド」「MIB」「地球(テラ)へ…」などのSFではよくみられます。
この映画はSFではありません。最も近いテイストなのは「フリー・ガイ」かもしれませんが、あちらは世界が元々仮想現実なので、この「手の込んだドッキリ」みたいな話とは別ですね。
あくまでも現実路線を固守している点が本作の面白さであり「違和感」なのだと感じました。

彼は囚人だと、唯一「番組」に抗議をするシルヴィアにクリストフは答えます。
「君が生きている現実の世界はーー病んでいる」
我々はトゥルーマンに普通で平和な幸せを与えているのだ、と。

この脚本の優れている点は、愛の本質を考えさせる設定がなされている事。
創設者のクリストフにはトゥルーマンへの愛があったのです。しかしそれは過干渉の親と同様に押し付けがましく支配的な一方的な感情。
彼は捨て子のトゥルーマンを産まれる前から見守ってきましたが、トゥルーマンの方は彼の存在も知りませんでした。
知らない人にいきなり愛を押し付けられてもね…。
時間を共にする事で、愛着は生まれるのです。
人間に限らない。動物でも、物に対してさえ。
子どもや可愛いがっているペットに、快適で危険のない安楽な一生を送って欲しいと考えない親や飼い主はいないでしょう。ずっと見つめていたい、抱きしめたい、ずっとそばにいるからね。

そういう人を「サイコパス」とは言いませんよね。
しかしクリストフはサイコパスなんですか?
私は違うと思います。
「病んでいる現代社会」の生存競争原理を信じて一流大学に入学させようと幼児の頃から勉強、塾漬けにして生きる道のレールを引く親のやる事と本質は一緒なのでは?
こういった「親心」をどう考えるか、ですよ。

この物語は親離れ、子離れをテーマにしているのです。

親の心、子知らず
でもその逆も真実

私たちが誰かを「愛する」のには実は理由があります。
イメージの投影です。
その先に、実際に知る事、彼の立場から見る事。
理解は共感へ、そして愛に向かうのではないでしょうか?
この映画を評価している方は、きっとそんな愛の本質に気づいた人たちかもしれませんね。

ただ、これで終わり?!って思ったエンディングで、もっとその先に何かあると思っていたので。肩透かしでした。
ハッピーエンドがいけないとは言いませんが
パンダ🐼が町で暮らせないのと一緒だと思うんだけどなぁ…


(小ネタ)
番組を視聴している一般人が映るのですが、日本人3人組が出てきます。喋ると中国人バレバレでしたが。
トゥルーマンが「こんにちは」という日本語の挨拶を知っている事も出てきます。

classified 機密の他に求人広告という意味がある

この映画の後、非公式にトゥルーマン症候群と呼ばれている妄想の症例があるそうです。
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