眠る猫

この世界の(さらにいくつもの)片隅にの眠る猫のレビュー・感想・評価

5.0
今度ミュージカルを観るので、予習のつもりで久しぶりに鑑賞。
(さらにいくつもの)がついているのはどういうことか?と思って調べたら、当時のものに追加されたシーンがあるらしい。
当時の映画も見たけど、細かいところを覚えていなかったので、ほぼ初鑑賞という気持ちで楽しめた。

いいシーン、いい台詞は多々ある。
リンさんの言う「この世界に居場所は簡単に無くならない」は無くならないけど、無くならないからこそしんどい時もあるのかもしれないなぁと思う。

終戦後、台風で被害に遭った時「戦争以外でも人は無くなる」というすずさんの言葉は、当たり前なのだけど、ずっと戦時下にあった話だっだけにハッとさせられる。
「晴美さんのことは笑って思い出したい。この先ウチは笑顔の入れ物なんです」
台風被害のひどい中、家族で笑って「笑いごとじゃないなぁ」と大変な時に笑う姿。
「泣いてばかりじゃもったいない、塩分が」

どれもツラいけれど、それでも日々の生活は続いているし、その中にも小さな笑いがあることを思い出させてくれる。

日本にオッペンハイマーに対するアンサー映画がないと某監督が言っていたけれど、直接原爆被害の悲惨さを描くことだけが原爆映画ではないと思う。
「夕凪の街、桜の国」や「この世界の片隅に」は十分な原爆のアンサー映画だと思う。
すずさんの母親は直接被爆して亡くなっており、父と妹は母を探しに原爆投下後に入市して間接被爆し、父は亡くなり、妹はおそらく白血病に罹患していると思われる描写もあり、原爆の末を決して大袈裟でなく淡々と日常の中に描いている。
そこに暮らしている人達がいて、原爆を落とされた後も泣いたり笑ったりして生活が続いていて、亡くなっていったのだ。
今の私達と何一つ変わらない、同じように泣いたり笑ったりして暮らしていた人々の時間を戦争や原爆が奪ったことを忘れてはならない。


九つの峰に守られているから呉というのは初めて知った。

久しぶりに見たけれど、改めてとてもいい作品だと思う。
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