囚人13号

ニッポン国 古屋敷村の囚人13号のレビュー・感想・評価

ニッポン国 古屋敷村(1982年製作の映画)
4.2
この取り留めのなさが213分の大ドキュメンタリーから相応の浪漫的ドラマを抉り出し、個の人生にはどんな映画よりも濃い大叙事詩が内包されているのだとインタビューで証明される。

東北地方の山奥、古屋敷村には夏がないらしく稲穂は悉く枯渇していくという実情含めそのプロセスの解説が冒頭にあり、稲が米を宿す過程を「受精」と表現していて何だかなと思ったが、ここは教育的で少々長すぎたかもしれない。やはり炭焼きで自給自足していた老婆の人生譚、夫と共に古屋敷村を建て直した女性の話、そして大戦で息子二人を亡くした母親の証言から映画はぐっと厚みを増していく。

個による「昔話」を(資料や字幕を最大限駆使した)大衆性へ変換する運動が本作における小川紳介の仕事であり、名も無き村に人生を捧げてきた人々の歴史を映し出すカメラは三里塚闘争を捉えてきたそれと全く異質で驚くほど謙虚に、初めてその地を目にする我々と視点を共有する。

後半は反戦映画と受け取るべきなのか、元従軍者ほか家族を失った者が沢山登場するのだが、その体験談一つ一つにカメラが捉えられないドキュメンタリー以上の光景がある。
苦労して整えた田畑がマッカーサーによって全て奪われてしまった夫婦/砲弾をくぐって旗を掲げた男/靴磨きを適当にやって馬糞を舐めさせられたラッパ手/戦死した息子と引き換えに国から与えられた1650円が全て国債だったため使うに使えなかった女性…。

誰にも知れず自然消滅していくであろう(もう今は存在していないかもしれない)小さな集落の歴史もまた消えゆく前に何らかの形で保存せねばならない、そこに半永久装置である映画を選択した小川紳介はやはり極めて稀有なドキュメンタリー作家だ。
自らのナレーションは少し手段が露骨であったようにも思えるが…未知を未知のままにしないというドキュメンタリーの模範解答を、映画史に残る美しい雪景色を今度は我々が継承していく番なのではないか。
囚人13号

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