逃げるし恥だし役立たず

デス・ウィッシュの逃げるし恥だし役立たずのレビュー・感想・評価

デス・ウィッシュ(2017年製作の映画)
3.0
救急救命医として人命救助に当たる外科医が、妻を殺され娘を傷つけられた復讐に乗り出す。悪党を私刑する主人公の復讐劇を壮絶かつ痛快に魅せるサスペンス・アクション。かつてチャールズ・ブロンソンが主演を務めた『狼よさらば』を四十四年ぶりにリメイク化。
シカゴで救急患者を診る外科医ポール・カージー(ブルース・ウィリス)は妻ルーシー・カージー(エリザベス・シュー)や娘ジョーダン・カージー(カミラ・モローネ)と幸せに暮らしていたが、彼の留守中に自宅に強盗三人組が押し入り、妻ルーシーは殺され、娘ジョーダンは瀕死の重傷を負って昏睡状態に陥ってしまう。失意の中、善良な市民が死に、悪人の命を救わねばならない事もある医者という立場に疑問を感じ始める。そして、犯罪が溢れかえり警察の捜査は一向に進まず、怒りが頂点に達したポール・カージーは偶然手に入れた銃を持って、犯人抹殺のため危険な街へと繰り出し始める。妻子を襲った強盗三人組を捜しながら街に蔓延る悪党たちに制裁を加える自衛市民になり、ネットでは死神と呼ばれ、市民たちから歓迎されるが…
本家の『狼よさらば/Death Wish(1974年)』は、過去の事故による銃器へのトラウマを持つ、筋金入りの反戦平和主義者で平凡な建築家が、妻を殺されて娘は暴行され重度の精神障害を患い、帰属できる基盤を失った善良な一市民が私刑制裁を行う事により苦悩と葛藤の狭間で奇妙な高揚感を覚えると云う、ベトナム戦争時代に作られた狂気の物語であり、不自然なカツラと哀愁漂うヒゲのチャールズ・ブロンソンの圧倒的な存在感が素晴らしかったのだが、技術や文化や道徳や倫理などの価値すら変わり果てた現代に、半世紀前の映画をリメイクする事に何か意義はあったのだろうか。監視カメラやスマートフォンの映像、遺留品による科学捜査が格段に進歩した現代に於いて、大昔の映画を掘り返すには無理があるのだが、多発する凶悪犯罪に不可思議な裁判制度、公共施設での銃乱射事件や広域化する麻薬組織、移民問題と過激な国粋主義などの当時と別のテーマが現代にはあり、リメイクの設定次第で物語の展開は幾らでも変えられた筈なのだが…
リアリズムと凶事が平穏に唐突に割込む理不尽に、悪人でも救わなければならない医師の倫理的葛藤と、悪人退治に快楽を覚えて感覚麻痺すると云う、ダークヒーロー特有の悲壮感や異常性の描写が欠けている上、生死を彷徨っていた娘が回復して早々に退院という、ドラマも無ければ丁寧に被害に遭った感情の軌跡を追う事もないので、物語に全く共感できない。まあ別にリーアム・ニーソン主演でも良かった訳であり、年老いて精彩欠いたブルース・ウイルスがいちいちアップで熱演を観せてくれるのだが、何時も同じ表情で感情の起伏も変化も伝わらず、いたって冷静に淡々と日常を過ごしていく血の通わない演技で、其処には映画の源泉となるハードボイルドやニヒリズムは微塵も感じられない。
ただ、復讐に燃えながらもYouTubeのハウツー動画で銃の扱い方を学んだり、医師の特技を使って拷問したり、銃器店の家具調隠しケースの存在などに、特殊なキワモノ監督イーライ・ロスの飽きさせてたまるかという気合十分の演出で、心情や過去が省かれた表面的な描写と淡々と進んでいく物語も、スリリングな展開は結構楽しめて、スピード感がありB級映画然とした爽快感がある。
AC/DCの「Back In Black」に乗せての復讐劇って、妻や娘そっちのけで絶対楽しんでやってるよね…