ひるるく

女王陛下のお気に入りのひるるくのレビュー・感想・評価

女王陛下のお気に入り(2018年製作の映画)
3.9
メンヘラかまってちゃんのアン女王、野心家で政局にまで影響を及ぼす高級女官サラ、没落貴族で立身を狙う侍女アビゲイルとそのほか宮廷に巣食う有象無象が繰り広げる愛憎絵巻。

どいつもこいつも利己的で誰にも共感は出来ないけど、ロブスター、聖なる鹿殺しに比べれば不条理、理不尽さもその理由付けを含め、まぁ理解出来る範囲で普遍性をまとって一般受けし易くなった印象。

と思っていたら脚本は今までと違い監督ではないのですね。

まず目を引いたのはバロック調の音楽、インテリア、衣装など美術や独創的なカメラワークと編集でした。

広角レンズを生かし奥行きが良く出るラインや構図で撮影されたダンス、屋外での二人並んだ乗馬、車椅子を廊下で押すシーンがバリー・リンドンを意識したという蝋燭や自然光だけのライティングと相まってとにかく美しかったです。

一方では魚眼レンズの歪み、執拗なローアングルから見上げる顔のカット、何の変哲もないと思っていた場面での速いパン(ウィップパン)やFワードの連発など見る者に不安定さ、威圧、緊張を絶えず感じさせる変態性、、、

う〜ん、この美しさと変態チックなアンビバレントが癖になる人はなるのでしょうね笑

そして個人的に一番興味深かったのは編集ですね、アン女王が痛風に苦しむシークエンスでクロスカッティングで緊張感を出すと同時に、つなぎ目にデイゾルブを使う事でアン女王とサラの顔が重なるカットは2人の関係の深さを上手く表現してたと思いました。

で、これがラストシーンで今度はアビゲイルとアン女王の顔とウサギ達がデイゾルブで重なるんですよね、台詞は一切なくウサギをメタファーにして2人の関係性を映像だけで示唆する巧みさ、オープニングのウサギの足音から伏線で繋がってたと気づいた時には脚本の妙に唸りました。

『哀れなるものたち』でも今回の撮影監督のロビー・ライアンと脚本のトニー・マクナマラは続投との事と、さんざんフィルマのTLで皆様の熱いレビューを拝見して気になってきたので見に行こうと思います。
ひるるく

ひるるく