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ゲット・アウトのmasayaanのレビュー・感想・評価

ゲット・アウト(2017年製作の映画)
4.4
今、おそらく僕たちは歴史の分岐点に立たされている。歴史とは、上野千鶴子の言う通り、「何を記憶し、何を忘却するか」の絶え間ない選択だ。どうにも、忘れてはいけないことがたくさんある。ドゥ・ザ・ライト・シング。そう、僕らはできるだけリベラルにいたいと思っている、黒人のボーイフレンドを誇るこの映画の白人女のように。保守的な、あるいは「自分は保守的じゃない」とはき違えている人間と、自分が家族や、親類や、同じ人種であることを、恥ずかしいと思っている。僕は違うよ、メーン、と。ドゥ・ザ・ライト・シング。そうできたらいいと思う。でも、正しさってなんだ?「差別はいけない」と、みんな言うけれど。

積極的是正措置を「不当な優遇だ!逆差別だ!」と非難する人たちと僕たちは同じ世界に生きていて、黒人が、女性が、障碍者が、セクシャルマイノリティが、在日朝鮮人が、そのような粗末なロジックで攻撃される世界に今日も生きている。「黒人であることは今、アドバンテージか?ディスアドバンテージか?」という問いは、その手の書籍では必ずと言っていいほど繰り返し検証される定番だ。と、頭では分かる。でも、じゃあ、ケンドリック・ラマーをそれっぽく聴いてそちら側にいるような気でいる僕たちは、いったい「彼ら」よりどれだけマシだと言うんだろう?

こういう表現を前に多少の心得を持とうと思い、いろいろと本を読んだつもりでいたが、結局、それはただ本を読んだだけだったようだ。この「何も言えなさ」がムカムカする。そして、この映画はたぶん、白人リベラルたちに絶賛されたのだろう。うーむ、うーーむ。シンプルに一つだけ、馬鹿のように擁護すると、『それでも夜は明ける』や『グローリー/明日への行進』の生真面目さでは絶対にタッチできない高さに、この文字通りのブラック・コメディは達しているように思う。すごい跳躍力だ。こっちもそれなりに殴られるけど。

ハスミセンセがどこかで書いていた。「映画を観るとは、同時代の映画を劇場で観ること(だけ)を意味する」。細かい書きぶりは知らんが、要はそういうことを書いていた。そのとおりだと思って、両方が揃わないのならばせめて「同時代」の方だけでも満たそうと思って、見逃していた「2010年代の傑作選」に手を付けたら、酷い目に遭った。本当のトホホ映画だな、こりゃ。ちなみに、参考にした『ローリング・ストーン』誌の年代ベストのトップ5はこんな感じ。

1位『ムーンライト』(ちゃんと再見しなければ)
2位『ソーシャル・ネットワーク』(順当)
3位『ホーリー・モーターズ』(順当)
4位『6才のボクが、大人になるまで。』(そのうち見直そう)
5位『ゲット・アウト』(順当)
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