ひるるく

聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディアのひるるくのレビュー・感想・評価

4.0
マーティンの家で見てた映画は恋はデジャブ

不条理ゆえに理解に苦しむけど演出や脚本の上手さもあって何だか面白い、初めて見た時はそういった感じ、再鑑賞につき少しでも咀嚼出来るようと古代ギリシア悲劇をモチーフにして云々の考察記事を読んでみた結果もやはり不条理でした笑

この映画の感想を要約すると覗き見の気持ち悪さと非日常の違和感から生まれるシュールな笑いですかね。

やたらと引きの画や俯瞰のショットとかたつむりが這う様にスローなズームインとズームアウトの多用は絶えず誰かが覗き見してる感じでたしかに神の視点と言えばそうとも見えるし、マーティン演じるバリー・コーガンのあのねっとりした視線はそれを象徴してる様にも思えますね。

そして癖のあるカメラワーク、不協和音な劇伴もだけど登場人物が絶妙におかしい、夫婦の営みの性癖、手淫、脇毛の長さマウントと会話や行為もだが皆がそれを行う時に無表情なのがなんともシュールなんですよね、もっと反応しろよと笑

派手な演出もなく人物も場所も限定されたクローズドな舞台で下手すれば中弛みしそうなのに、前述したカメラワークや癖のある会話や行為などで平穏な日常にじわじわと非日常が侵食して行く感じにぐいぐい引き込まれ全く飽きる事が無かったですね。

そしてラストのぐるぐるダンス、あれはやっぱりこの監督が他の作品でも好んで使うダンスですよね、娘の意志や神話のモチーフも絡めて考察してもあの理知的な父親が出した答えがあれなのは不謹慎ながら笑いました。

あのシーンのカメラの手ぶれは嗚呼、哀れ人間はなんとも矛盾した不条理な生き物なのかと神々の哄笑なりや。

この作品はホラー、サスペンスの皮を被ったブラックコメディだと私には感じられましたね。

最近見た『哀れなるものたち』は奇天烈ながら話しも整合性があってアート面も素晴らしく完成度は圧倒的ですが、採点するのと好きは違うと言いましょうか私がこの監督に求めるのはこの不条理さだと気づきました、また大衆を突き放した作家性ゴリゴリのこういった持ち味の作品も作って欲しいですね。
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