Eryyy678

リトル・マーメイドのEryyy678のレビュー・感想・評価

リトル・マーメイド(2023年製作の映画)
4.1
#NotMyAriel騒動から、色んな意味で注目されてしまった本作。

私の所感として、この映画のアリエルは、まずアニメ版のアリエルの見た目とは明確に似ていないと思います。

しかし私はこの実写版が好きです。

それはアニメ「リトル・マーメイド」が忠実に再現されているからではありませんでした。

忠実かどうかでいえば、おおまかなストーリー、セリフ、シーンのチョイスなどは忠実ですが、アニメ版のヨーロッパ 世界(地中海だかバルト海だか知らないけど、おそらくヨーロッパ)とこの実写版では、世界観が大きく異なるように思います。

この実写版の舞台はおそらく南米だかその辺りのような気がするし、あの絶妙にラテンっぽいノリの世界の中で繰り広げられるこの実写版リトル・マーメイドは、アニメ版が好きな私とては、全く別ベクトルのものにしか見えませんでした。そしてすべからく、市場っぽい場所でダンスするシーンあたりから、それは確信になったように思います。

この「アニメ版」から切り離された、妙にラテンナイズな世界(カリブとかその辺の可能性もある)の中で繰り広げられるリトル・マーメイドは、これ単体として非常に魅力的な世界でした。無論それは「アニメ版の忠実性の再現」という願望が私の中で消え去ったからですが。

そして、海と陸、異なる種族同士が一つに交わるというこの作品のテーマ上、ヨーロッパ文化が土着に溶け合う南米(その背景に血みどろの歴史があるにしろ)という地のチョイスは、実に絶妙です。
そしてむしろ、この世界観でやるなら、アリエル役のハリー・ベイリーはマッチングするわけですね。
この配役に関しては、大きな物議を醸していましたが。

ここ数年のディズニーは、ポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ)に苦しんできたと思いますし、当然ながらリトル・マーメイドにおいても、それを意識せざるを得なかったと思います。
私個人としてはポリコレ要素が良いとか悪いとかではなく、製作者がポリコレを意識するあまり苦しむ状況というのが嫌なので。それが強制されるものではなく、自発的にストーリーに反映されるのが理想かと。

そして私は、アニメ版のリトルマーメイドとは別ベクトルの作品として完成されたこの映画に感動し、それでもやはりアニメ版のアリエルの残像に縋るように、妙な寂しさに襲われるのです。このクオリティで作ってくれるのなら、やはり単純に…人種とか云々じゃなくて、単純に「似ている」キャスティングにして欲しかったという願望が。

この映画の大筋はアニメ版通りですが、名シーンの迫力に関しては、やはりアニメ版には劣るように思います。
アリエルの歌唱と共に岩に波が打ちつけるシーン、これは断然アニメ版のほうが良かった。トリトンとアースラのやり取りも、忠実にやってるようで忠実じゃないってシーンが所々見られて、ちょっと拍子抜けしてしまうんですよね。
ハリー・ベイリーの歌唱力はぴかいち。アースラの歌や実写版オリジナルソングも良かった。ヴァネッサ役の女優も、これまたクールな雰囲気と美しさが素敵。トリトンも威厳があって良い。
セバスチャンとかフランダーは…なぜそこで、リアルにこだわった?と思う程に可愛くはない。

でも結局エリック王子が、別に歌声とか関係なしに、アリエルのことを愛するよねって思えるような描写が端折られずに丁寧に描かれていたのは良かったです。

いろいろ描きたいことはあるのですが、余韻としての満足感は、細かい不満点には優っていたと思います。
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