kojikoji

まあだだよのkojikojiのレビュー・感想・評価

まあだだよ(1993年製作の映画)
4.0
 1993年 監督・脚本・黒澤明
 内田百閒:松村達雄 妻:香川京子
 高山:井川比佐志 甘木:所ジョージ
 桐山:油井昌由樹 沢村:寺尾聰

  第30作
「黒澤明に挑む」と仰々しいテーマに取り組んできたが、この作品を持って完結した。

 今年1年、この作品を入れて569本の映画を観た。もちろん長い人生の中で、こんなに観たことはない。

 オールタイムベスト1の「七人の侍」監督黒澤明の全作品を見直し、レビューを書くという企画は、何とかここに終えることができ、忘れられない年になった。

 ラストの作品「まあだだよ」は、期せずして、前作「八月の狂詩曲」のレビューに書いた不満を、ものの見事に打ち砕いてくれた。この作品は、これまでの黒澤監督作品とは全く異質の作品になっている。そしてこの最後の作品で、後期の苦悩した作風を完成させ、乗り越えたと思う。

映画は内田百閒の随筆を原案に、戦前から戦後にかけての百閒の日常と、彼の教師時代(法政大学)の教え子との交流を描いている。

これまでの劇的で、非日常的で、激しく、力強い作風を完全に払拭し、やさしく、のんびりしていて、日常的で、静かに心に染み込むような作品に仕上がっている。傑作だ。

「男はつらいよ」のおいちゃん松村達雄が、
ユーモア溢れ、魅力的な教師内田百閒を演ずる。こんな理想的な師に一生に一度でも出会うことができたら、どんなに素晴らしい人生になるだろう。その師の元に集う者達は、きっと自然とこの映画に描かれたような心温まる理想郷に近い交流が生まれるに違いない。

先生が、最後の「摩阿陀会」で教え子の孫達に送った言葉が黒澤監督の遺言のように聞こえる。
『みんな、自分が本当に好きなものを見つけてください。自分にとって本当に大切なものを見つけるといい。さらにその大切なもののために努力しなさい。君たちはその時、努力したい何かを持っているはずだから。』

2022.12.30視聴569
kojikoji

kojikoji