革芸之介

ミューズ・アカデミーの革芸之介のレビュー・感想・評価

ミューズ・アカデミー(2015年製作の映画)
4.3
やっぱりホセ・ルイス・ゲリン最高。私の好きな現役の映画監督の中でもベスト3に入ります。

本作はいろいろ難解だという噂だったので見る前は緊張してたけど、コメディじゃん。しかも艶笑喜劇。笑った。お上品な東京都写真美術館でニヤニヤしながら見てました。

冒頭の大学の授業シーンから面白い。ピント教授の話す言葉が凄いリズミカル。ラップみたいなんだよね。教授の身振り手振りと熱いライムでヒップホップを連想。しかもこの授業シーンが濱口竜介「ハッピーアワー」の重心についてのワークショップや作家の朗読会の場面を連想させた。あの現実と虚構の間で議論の渦に巻き込まれていく不思議な感覚。

そしてホセ・ルイス・ゲリンの必殺技であるガラス越し、窓越しのショットがバンバン決まりまくる。もうサービス精神旺盛なぐらいガラスに反射させる。ゲリンのガラス越しショットってサイケデリックで幻想的。顔面アップとガラスに映る風景や通行人や車、風に揺れる木々などがコラージュ芸術のように美しい。

とにかく顔面アップショットの表現の多彩さが際立ち、映画表象における「顔面アップ」という表現技法をさらにゲリンは進化させてくれた。

ピント教授の奥さんは、いったい何者なのか。彼女はとても本作の喜劇的側面を理解している人で、教授のボケに奥さんがツッコミを入れるシーンを見るたびに夫婦漫才を想起させ、奥さんが窓側に立ち外を眺めながら、教授のかなり無理のある言い訳を聞くシーンは変な緊張感と居心地の悪さを感じてしまう珍場面。

文学、詩、哲学、芸術など高尚で学術的な言葉を語っても結局はセックスとか性欲の話になっていくところが正直で潔くて素晴らしい。
革芸之介

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