Bahun

シャブ極道のBahunのネタバレレビュー・内容・結末

シャブ極道(1996年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

覚醒剤関連のブラックジョークは全部この映画が出し切りました。もうダメです。

普通の人間の内の抑圧されていたものが大爆発したりする映画が好きなんですが(僕は一般中年男性大爆発モノとかディストピア爆発モノと呼んでいる)、割と普通寄りの人が思わぬところまで到達してしまうような話も好き。『ファーゴ』とかは映画もドラマも一貫して「本当に普通の人がとんでもない大罪を犯すまで」の話だったんだけど、これもかなりそれに近い。これは「ジャンキーのチンピラがどこまで行けるか」の話。

主人公の役所広司演じるヤクザは本当に「覚醒剤打てばスーパーマン、なければダメ人間」みたいなやつで、それ故に覚醒剤に心酔しているし、後半に至っては崇拝の域にいく。

ただ、これってヤクザを料理人に、覚醒剤をオムライスに読み替えれば下町の洋食屋のおっちゃんの話になるわけで、ここに覚醒剤を持ってきたのが全てのキモなのかなと。

つまるところ、覚醒剤の要素を抜けば、「ある一つの事柄を信じ切った男の一代記」であり、それ故に「男社会、ホモソーシャルの歪み」みたいなものも描かれる。ホモソーシャル特有の男同士の信頼関係とか、組をデカくしようとする野心みたいなものが、それらの目的が「シャブを売って世界を平和にする」であるが故に、そして主人公が常にハイで奇行だらけであるが故に、ものすごく下らないものに見えてしまう。(監督は多分そんなこと考えてないんじゃないかな…とは思うんだけど)やってることすげぇんじゃねえの??と思います。

そして、もちろん「男の一代記」をクソ真面目に描いただけな映画なはずはなく、シャブジョークが全編に散りばめられている(初っ端から主人公はスイカに塩の代わりにシャブ振って食べている)。「スイカにシャブ」のテンションで最後まで突っ走り続けるので最高です。

また、意外な良かった点として、主人公が常に覚醒剤を打ちまくっている故に、主観での映像は美しさや恐怖が強調されて描かれていて、ところどころ思いの外アーティスティック。

ライバル的な立ち位置の人物のキャラクターがやや弱かったり、多少問題点はあるんだけれど、その辺りを誤魔化すのにもうまいことシャブが効いているな、という感じ。弱点を補い、強みを強化する。これからは映画監督は積極的にシャブの起用を考えた方がいいのかもしれません。

あと、やっぱり役者陣の名演についても話しておきたい。特に役所広司、同じ年に『シャルウィーダンス』とかいう映画で、社交ダンスに生きがいを見つけるサラリーマンの役やって賞とってるらしいですよ。この映画を見たら、本当に同じ人間かよ?って言っちゃうと思います。

この映画、撮影が1995年の関西で、阪神淡路大震災を間に挟んで取られているので、震災の傷跡残る街並みが生々しく写っていたりもして、歴史的意義もあったりします。
そんな歴史的意義もあり、凄く面白いシャブ極道、「おすすめです!」と言いたいところですが、全然出回ってません!配信は当然ないのでDVDをゲットするか、国立映画アーカイブの上映予定をチェックしましょう!題名のせいで映倫とかなり揉めたらしいですね。致し方ないのか。

「シャブを打ちまくりスイカにシャブ振って食べていた役所広司が、警察から逃れて隠遁生活を送る模様を撮ったのが『パーフェクトデイズ』であり、パーフェクトデイズとシャブ極道は前後編である」という都市伝説を広めれば、もう少し観るチャンスが増えるかもしれません。というわけで『パーフェクトデイズ』、おすすめです!
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