カトゥ

この世界の片隅にのカトゥのレビュー・感想・評価

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
5.0
良い映画は数多くあれど、多くの人に観てもらいたい作品となると難しい。本作は、その「万人に薦められる名作」だった。
 
 
あらすじからわかるように、第二次世界大戦を“海軍の街(呉 広島)”とその周辺で過ごした若い女性を描く。ありきたりな「戦中らしさ」よりも、庶民の身の丈の工夫や近所付き合いなど、なるほど確かにそうだったのだろうと思わせる描写が素敵だ。明るめの画面作りと優しい絵柄、細やかなユーモアもあって、戦前から戦中、そして敗戦といった、どうあっても悲惨で暗くなる世界で(繰り返すが、舞台は呉と広島だ)、それでもきちんと暮らそうとする人々の真っ当さが伝わってくる。
 

比較するものでもないとは思うが、「戦争+アニメ」といえば長らく定番であった「火垂るの墓」や、学校教育で出会う悲惨な空襲や原爆の記録によって恐怖から忌避感を持ってしまった人、あるいは現代との差にどうしても感情移入できない人、そして「反戦映画」の単純さに反発を持つ人達にとっても、この作品ならば何かを感じることができるだろう。
戦争もまた人の営み。こうして、新たなかたちで向き合うことができた事は、幸い以外の何物でもない。
 

個人的には、ぼんやりと「自分なりの楽しい人生」を送っていた主人公が、大きな理不尽に翻弄される中盤以降を、まるで我が事のように感じてしまった。自分は彼女ほどの境遇では無いのに、あの「訴える力」は人を引き込む。
 

多くの人に観てもらいたい、とは言うものの、「泣けた」を連呼したくない作品ではある。 作中では感情移入必至の「泣くシーン」が多々あるが、視聴者を泣かせるために(作り手により)用意された涙ではない、そんな気がする。 それでも、そんなもの用意されてなくても人は泣くし、笑ったり怒ったりする。
とはいえ、堅苦しかったり泣きを売りにした作品ではなく、穏やかな笑いの絶えない映画でもある。苦しみの中でも、悲しみの後にも、人は笑うことができる。みんなが笑える世界がいつか来ると願いながら。

僕も、劇場中の多くの人も泣いていたが(たまに笑う)、それはまた別の話。
 

 
この素晴らしい映画が世に出て、本当に良かった。微力ながらクラウドファンディングに参加した経緯を差し引いても、間違い無く傑作だと思う。結末を知った今も、もう一度観てみたいと考えているくらいに。
カトゥ

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