カトゥ

ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリーのカトゥのレビュー・感想・評価

4.0
スピンオフはこうでなくっちゃ、というお手本のような作品。こういうものを見たかった、と考えるスターウォーズ・ファンも多いのではないか。
 
ハリウッドSF映画のシリーズものに関しては、あまり期待しないことにしている。例えばいわゆるマーベル映画なんて、映像はどんどん豪華になって楽しいけれど、シリーズを通した整合性は無茶苦茶で、時々マニア向けのシーンや小ネタを挿入しておけばオーケー、みたいなつくりが目立つ。原作やサーガやクロニクルなんて商売の都合だよね、と思えてしまうのだ。エイリアンとかターミネーター、書き出すときりがない。

ところがこの「ローグ・ワン」は、驚くほど“きちんとして”いた。スターウォーズらしさを現代の豊穣な技術で、という試みはずいぶん前からあったけれども、本作では徹底している。まるで模型みたいな宇宙戦艦は、しかし本当に模型だったら体育館サイズになってしまう。だからCGなのだろうが、ものすごく良く出来た特撮の味があって面白い。お約束を守ってマニアを喜ばせるのではなくて、お約束を磨き上げて万人を感心させてしまう、それが出来る時代にようやくなったのだ。

ストーリーとしては、「ep.4 新たなる希望」の直前までを描く。なるほど上手に繋げるものだと感心するし(本当に直前で、びっくりした)、物語としては一直線でわかりやすい。今まで「正義と秩序のレジスタンス」としてお行儀が良かった反乱軍の別の側面、「Rogue:はぐれ者」が大活躍。
「親を失った子供」のお話でもある辺りは、きちんとスターウォーズ。

  
いわゆるメインのサーガにおいては、フォースとメインキャラクターの愛と情念とうっかりミスで銀河の趨勢が左右されてきたスターウォーズ世界。
でも裏では食い詰め者みたいな人達がゲリラ戦と権謀術数で(泥臭く)汗を流している。汚い仕事だって多いし、どう頑張っても絶望的な戦いになる。
例えば、帝国軍の四つ足装甲兵器の怖さは、この映画でこそ説得力がある。戦慣れした反乱軍兵士は、トルーパーさん達は倒せても、あの馬鹿みたいな四つ足が出てきたら逃げるしかない。
だからこそ「ep.4」以降で、ルーク・スカイウォーカーは救世主たりえたのだろう。そんな意味では、このスピンオフは正しくスターウォーズ・ユニバースに厚みを与えている。別の言い方をすると、“ファンのツボを押さえている”。

 
 
スターウォーズはもはや伝統芸能となった。
新しい才能にリスペクトされ、洗練と細分化と研究によって高みを目指す。たぶんルーカス氏は怒るだろうが、この“閉じた世界”で解像度だけを上げる試みは、(少なくとも僕にとっては)喜ばしい。


特に難しいストーリーでは無い。わざわざ「ep.2」や「ep.3」を復習しなくても楽しめるだろう。ただし、序盤に似たような顔と境遇の人達がまとめて登場して、同時進行で状況説明が続き、なんだかよくわからないまま中盤で状況と情報が収束するつくりになっている。最初から楽しもうと思うのならば、Wikipedia辺りで予習をするのがお薦め。「デス・スター」の項目だけ読めば良い。間違っても「ローグ・ワン」のページは読まないこと。ストーリーが余さず書いてあって、完全なネタバレになっている。
 
 
しかしまあ、僕としては、チベット風座頭市マン(強い)を観ることができただけで、この映画は満足。アメリカ人の考える、アジアの神秘が彼である。
カトゥ

カトゥ