藻尾井逞育

真夜中の五分前の藻尾井逞育のレビュー・感想・評価

真夜中の五分前(2014年製作の映画)
4.5
「誰も他人を愛することはない。他人の内にいる、いると思っている自分だけを愛する。愛されないことを悩まなくていい。人はお前を他人として感じたまでだ。ーーフェルナンド・ペソア」
「これからはもっと自分の時間を大切にしたい。次にあなたに会う時は、私は今を生きてみたい。5分前でも5分後でもない、今を」

時計修理工の青年リョウは、知りあったばかりの美女ルオランから、彼女の双子の妹ルーメイへの婚約祝いのプレゼント選びを手伝って欲しいと頼まれる。魅力的なルオランにひかれるリョウだったが、ルオランはルーメイの婚約者ティエルンを愛しており、大切な妹への嫉妬心に悩んでいた。リョウはそんなルオランの気持ちを優しく受けとめることで少しずつ彼女との距離を縮めていくが、ルオランとルーメイが旅先で事故に遭ってしまう。

出演された三浦春馬さん、劉詩詩さん、張孝全さんのしっとりした演技がこの映画の雰囲気を作りあげています。特に劉詩詩さんは、ささやくような中国語で、変に力まずにさらりと姉妹を演じ分けているので、彼女の魅力の中、今いったい姉妹のうちのどちらなんだろう、と"愛の迷宮"に誘い込まれてしまいます⁈最初は髪型がストレートのルオランと巻毛のルーメイで見分けられますが、途中から髪型が一緒になって、もうわけわからなくなってしまいます。実は幼少期にすでに入れ替わっていたという解釈もできますし…。
この映画の避けては通れない「旅先の事故から一人だけ帰国したのは、姉か、妹か?」の問題ですが、私自身は、一回目の視聴時は、そうであってほしいという願いも込めてルオラン派でした。その後二回目ではルーメイ派に変更です。でもこの次はどちらになるか、私自身全く自信がありません⁈事故を伝えるニュースの後現れる蝶の意味と、家族交えての食事会での会話の解釈あたりが物語を分けるポイントなのかもしれません。
いずれにしても、この映画のいいたいことは、もっと別なところにあるような気がします。この映画に登場するみんな、フェルナンド・ペソアの詩が指し示すように、最初から本当に目の前の相手のことを大切に思い愛していた人は、実は一人もいなかったかと思われます。それでもたとえその人がいったい誰であろうとも、5分前でも5分後でもないまさに今を懸命に生きようとしてもがいている目の前の相手を、自分は本当に愛することができるのかということが問われているようです。
本職の時計職人のように時計を修理したり、中国語を勉強して相手と自然に会話してみせたり、三浦春馬さん、本当にいい俳優さんでした。